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久々に見た側近は以前にも増して美を感じさせる。
それはきっと愛おしい男性の傍にいるからだろう。そしてエイドリアンもユーインを大切にしている結果なのだろう。
そう思えば、ベルセフォネのふっくらとした真紅の唇は弧を描いた。
彼女は側近だった彼から目を外し、そうした感謝の気持ちをもって寝台の上で眠っているエイドリアンを視界に入れる。
――漆黒の髪に象牙色の肌。
強い意志を感じられるその姿は夫であるハデスによく似ている。
ユーインが恋をするのも無理はないと、彼女は思った。
なぜならベルセフォネはハデスをとても愛しているからだ。
しかし、エイドリアンは夫ハデスと側室の、しかも裏切り者のエメロンとの間に生まれた子である。
本来ならエイドリアンと妹ベネットを憎んで当然ではあるものの、彼女は実の子同然のように思い、可愛がっていた。
たしかに、エメロンの罪は重い。しかし義理の息子や娘には摘みはないというのが彼女の持論だった。
当然、エメロンが夫を――しかも冥府の王の夫を差し置いて他の誰かと密通することは大罪に値する。
さらには彼女も冥界を抜け出し、実の娘であるベネットを連れ去った。
残されたエイドリアンの唯一の肉親が冥王ということもあり、裏切り者だと皆から白い目で見られ、孤独な日々を過ごしていた。
だからこそ、だろうか。
ベルセフォネは自分とハデスの間に子供が授からない分、エイドリアンとベネットのことを常に気にかけ、そして陰ながら保護してきた。
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