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何やら相当腹の立つ物言いをされたのか、もしくは彼女の言葉を軽くあしらったのだろう。
ベルセフォネはとても気が強い女性で、自分が女であるからとただそれだけで軽く見られることがとても嫌っていた。
「……ああ、失礼」
今にも怒りそうな彼女の雰囲気に苦笑するユーインで我に返った彼女は両手で口を塞ぎ、そうしてこみ上げてきた怒りをなんとか抑えると、彼女にしてはとても謙虚な言葉で夫の悪態をつきはじめる。
「あの方は《少々》堅物なの。証拠がなければ動けないとそればかり。まるで彼の身体すべてが太い木の根っこで、地面に突き刺さっているかのようよ。ねぇ、お願いですユーイン。エイドリアンと共に戻ってきて」
ユーインはベルセフォネに感謝してもしきれないほどの恩義を感じていた。ユーインが名もない一般兵だった頃、側近という重要な位に置いてくれたのはベルセフォネだ。
それになにより、一般兵ではけっして適わないエイドリアンという人物に近づき、こうして肌を重ねることもできた。
それもこれもすべて彼女がいたからこそだ。だから、彼女の願いは叶えてやりたいとも思っている。
けれど、今回ばかりはどうなのだろうか。
冥界に戻ってほしいという彼女の願いはつまり、エイドリアンの意思を曲げることにならないだろうか。
なにせ彼は妹を探すのにとても必死だ。
素直に冥界に帰ってくれるとは思えない。
冥王ハデスがベルセフォネの言う《堅物》なら、エイドリアンもまた《それ》だ。彼らは正真正銘、血が繋がった親子なのだから。
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