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ユーインは彼女の切実な要求を受け止めることができず、返事に窮した。
けれどいつまでもこうして返事をしないのは要求を受け入れることができないという返事よりも失礼だ。
ユーインは仕方なく、ベルセフォネにそれは難しいことだと伝えようと口を開ける。
「まあ、大変! ハデスがこちらへ来ますわ。今日、貴方の目の前にやって来たこのことは彼には言ってませんの」
彼女はそう言うと、ユーインの言葉も待たずに跡形もなく消えてしまった。
残されたユーインはただ呆然と何もなくなった空間を見つめるしかなかった。
沈黙がふたたび部屋を包み込む。
嵐のように去って行った主人を見送ったユーインの後ろで、大きく布が擦れる音がした。
ユーインは思考を止めて振り返った。
「エイドリアン?」
いったいどうしたのだろうか。
エイドリアンは目を覚ましたかと思えば突然起き上がり、悪魔退治のためのさまざまな武器が入った棚を開け閉めしている。
ユーインが彼の名を呼べば、彼は無愛想な表情のまま、ただ手を動かしてこう告げた。
「アルテミスから悪魔退治の言いつけがきた」
ユーインは自分の耳を疑った。
ブラインドに覆われた窓の外はまだ太陽の光が差し込んでいる。
負という感情を喰らって生きる悪魔は本来、人々を躍動的にする太陽を嫌う。だから深夜に行動し、闇を支配する生き物だ。
しかし今はまだ白昼で、人々の世界は光に包まれている。
これでは悪魔の力は発揮できるどころか、正の感情に負けてしまう魔力は失うばかりである。
――それなのに……。
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