第6話・くだらない命乞い。

1/7
前へ
/315ページ
次へ

第6話・くだらない命乞い。

 彼らにはエイドリアンたち同様、人間のように頭部、胴部、足部があるが、腹部やら両手に斧や釜をまるで武装しているように取り付けられていた。  その姿は今までよりもずっと異様で、これまでにこんな形態をした悪魔を見たことがなかった。  ――見る限りは知能はそこまでなさそうだ。だが、少なくとも赤ん坊に似せた悪魔よりはずっと知能は持っているだろうことは簡単に想像がつく。  人間世界で武器を錬成させること自体とても困難なことだからだ。  しかもよりにもよって負の感情から生まれたばかりの力なき悪魔がここまでの魔力を持つことすら有り得ない。  幸い、この場所には人間はない。それがせめてもの救いだ。  それというのも、彼ら悪魔は人間の感情を食らう生き物で、その感情を食らえばたちまち力を得てしまうからだ。  知能を持ちはじめた秩序も何も知らない悪魔が力を持つと恐ろしい事態を招く。  そうなれば、統括者がいないこの世界は死の国・冥界よりも混沌とした秩序なき恐ろしい闇の世界へと変わる。  それを恐れた彼女は、今まさに精神世界と肉体世界を分断したのだ。  《彼女》とは――今まさにエイドリアンとユーインの前に立っている女性、金色に輝く波打つ髪とどこまでも見透かすようなアクアブルーの瞳を持つ女神アルテミスのことだ。  《分断》とはすなわち、特殊な結界を張り、人間界とこの場を切り離したことを意味する。エイドリアンたちがいるここは、いわゆる精神世界だ。もちろん、悪魔たちは精神世界にいることに気づいていない。
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加