出会い

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出会い

 石田茜(イシダアカネ)18歳。  県内公立高校に通う女子高生だ。    両親ともたくさん話して、大学へ進む道を選んだ。  両親とも穏やかで、私のやりたいことをやらせてくれる。  幸せな環境にありがたいな…と思っていた。  高校生活最後の夏休み。  花壇でしゃがみこんでいる男の人を見かけた。 『あれは…、噂の中山先生…?』  話によく聞く人が目の前に居て、茜は思わず物珍しさで観察をしていた。  中山啓太(ナカヤマケイタ)59歳。  いつも白衣を着ていて、暇があると畑や川に出没する、変わった先生だ。  話したことのないその先生に、茜は興味が湧いた。  少し離れた所から観察する。  花壇の土をじっと見つめて、何か応援してるようだ。  少しそばに行く。 「頑張れ!頑張れ!」  声が聞こえた。  思わず、茜は近づいた。  近くに行っても分からず、仕方なく中山の隣にしゃがみ込み、 「…先生、何してるの?」 と、問いかけた。  「え?は?」 と、慌てた中山は、尻餅をついた。 「だから、何してたんですか?」 と、茜はもう一度問いかけた。 すると、中山は小さな声で、 「蟻が…運んでて…」 と答えた。 「え?蟻見てたんですか?…暇なんですか?」  茜が呆れたように言葉にすると、 「いやね、なんか頑張ってるじゃない。あんなに小さいのに、大きな食べ物抱えて…」  そう言って、中山はニコッと微笑んだ。  茜は、大人びた男性が好きだった。  それなのに…、  その中山の笑顔に恋をした。  きっと実らない…。  告白なんて、出来ない…。  それでも、それでも、好きだ。  それから、胸に秘めた想いを誰にも告げらなかった。  二学期になっても、茜は中山を探しては、偶然を装い声をかけた。  まさか、茜に好意を抱かれているとは思っていない中山は、会うたびに偶然を驚き喜んだ。  そして、中山の昆虫雑学を茜は毎回聞いて、目を輝かせて話をする中山を愛おしく思っていた。
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