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言い合い
茜が、中山と駅で分かれて家に帰ると、玄関に母親がリビングから現れた。
「…あなた、何考えているの!?」
困惑した声で、茜に問いかけた。
「私、大学へは行かない。家も出てく」
茜のその言葉に、静まり返った部屋の中。
「大学行かずに、何するんだ?やりたいことでも出来たのか?」
父親のその問いかけに、
「うん。出来た。好きな人と暮らす」
そう答える茜の顔を、父親と母親が驚いた顔で見つめた。
その時、
「…ただいま」
何も知らない弟が帰ってきた。
普段はすぐに部屋へと行くのに、何かを察したのか、リビングへとやってきた。
「何かあった…?」
姉は今日試験のはずだ。
実力が出せなかったのか…?
弟がそんなことを考えていると、突然母親と姉の掛け合いが始まった。
「好きな人と暮らすって…」
「電車で2時間の所。住む所ももうあるの」
「同棲するの?そんな相手、あなたいたの?」
「今日決めたの。ずっと好きだった人」
「ちょっと待って、今日決めた人って、どういう事?」
「今日両思いだって分かって、彼が4月から住む部屋に私も行くの」
「…突然過ぎて、理解できないわ…。相手は誰なの?」
「学校の先生」
「先生…?いくつの人?あなたが教わった先生…?」
ここまで母親と掛け合いをした茜が、言葉を躊躇った。
そして、覚悟を決めた顔で話しだした。
「習ってない先生だよ。年は…40くらい上」
茜のその言葉に、母親が、
「あなた、何を考えてるの!そんなに年上のひととなんて!」
と、大声を上げた。
初めて聞く母親の怒鳴り声。
茜は一瞬怯んだ。
でも、負けてられない気持ちが強かった。
「私の人生なんだから、好きに生きていいでしょ!」
「たしかに、あなたの人生よ。でも、こんなに簡単に大学諦めたり同棲なんて、お母さん嫌よ、反対よ」
母親がそう答えると、茜は母親を睨んだ。
「お母さんに反対されても私は彼といる」
そう答えると、
「とにかく、冷静になれ。相手の男とは大学のこと、住むこと話し合ったのか?」
と、柔らかい口調で父親が茜に問いかけた。
「話した。二人で決めた」
「なら、相手の男はなぜ家に来ない?」
「…え?」
「そうだろう。大人ならちゃんと説明をしに来るはずだ」
父親の正論に、茜は苛立ってしまった。
「あ〜もう!うるさい!うるさい!私の幸せなんだから好きにさせてよ!」
と、茜が大声で叫ぶと、
『バチーン!』
と、音がした。
父親が茜の頬を叩いたのだ。
大事に大事に育てた娘。
怒鳴ることも、怒鳴られることも少なかった。
生まれて初めて叩かれた頬を、茜は手で押さえた。
静まり返った部屋の中。
「好きにしたいなら、出ていきなさい。もう娘とは思わない」
初めて聞く父親の怒りの声。
「わかったわよ!出てくわよ!」
そう言って、茜は何も持たずに飛び出した。
リビングでは、何も言わずに立ちすくむ弟と、泣いている母親に寄り添う父親の姿があった。
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