硝子窓

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硝子窓

俺の母親は俺が3つの時に家を出ていった。 親父は会社を継いで社長業に忙しく、俺は祖母に育てられた。 そんな祖母が他界してすぐ、親父は再婚し弟が二人できた。 が、俺は新しい母親と馴染めず、弟とも距離ができてしまった。 形だけの家族。 硝子窓の向こうでは、仲の良い家族がクリスマスツリーとケーキで幸せそうに笑ってる。 俺は部屋に引きこもった。 そんな俺を心配して、親父がドラムセットを買ってくれた。 防音室まで作って。 俺は余計に引きこもるようになった。 光くんと出会ったのは中学生の時だった。 光くんはバンドを作るためにメンバー集めに躍起になってた。 でも俺のドラムの腕はまだまだでとても立候補できなかった。 よく誘われて練習を見に行った。 カイくんと槙緒くんはお兄ちゃんのようだった。 バイト代でご飯に連れてってくれたり、家でゲームしたり。 その時間がとても楽しかった。 みんなの仲間になりたい一心でアホみたいにドラムの練習をした。 手に豆ができたのを槙緒くんに見せると消毒して絆創膏を張ってくれた。 「この豆はお前の勲章やな。努力は絶対裏切らへん。頑張りや。」 と言ってくれた。 カイくんは誕生日とクリスマスに必ず俺の好きなお菓子を袋一杯にプレゼントしてくれた。 高校に入ってようやくドラマーとしてバンドに入れてもらえた。 光くんは俺のドラムを気に入ってくれた。 その後、颯太と凌平も入ってきてバンドは完成した。 光くんが抜けるって聞いた時はショックすぎて落ち込んだ。 ずっと一緒やと思ってたのに。 まるで家族がいなくなるような気持ちになった。 そんな俺を心配して槙緒くんもカイくんもよくご飯に連れていってくれた。 俺はいつの間にか二人をお兄ちゃんというより親のような存在に感じていた。 颯太と凌平は兄弟みたいだった。 親父とも義母とも弟たちとも家族になれなかったけど、俺には家族ができた。 だから、カイくんと槙緒くんには仲良くいてほしかった。 二人がギスギスしてるとこっちも落ち着かない。 だから俺たちは三人で考えた。 二人を旅行に行かせようと。 二人にはみんなで旅行に行こうと持ちかけた。 「たまにはええなぁ。バンドの結束深めるためにも。」 「旨いもん食って飲もうや。」 とノリノリ。 全ては計画どおり。 新幹線のチケットも二人に渡して、東京駅で待ち合わせにした。 そして当日。 二人はちゃんと東京駅に着いてた。 それを俺らは近くで見守っていた。 当然、俺に電話がかかってくる。 「お前どこおんねん。」 「ごめん、俺ら三人行かれへんくなってん!」 「え?」 「二人で楽しんできて。旅館も取ってるしお金ももう払ってるから。」 「なに言うてんねん。」 ブチッと電話を切ったあと三人ともスマホの電源を切った。 二人は仕方なくという感じでもなく、しばらく話した後新幹線に向かっていった。 多分、カイくんのことやからみんなで遊ぼうとトランプとか持ってきてたんやろな。 槙緒くんは俺らの為に胃薬とか風邪薬とかもってきてたはず。 「お前、ほんまは5人で旅行行きたかったんちゃうん?」 颯太にそう言い当てられた。 そう言えば家族旅行なんてしたことなかったなぁ。 「行かへん?俺らも今から。」 凌平が無邪気に言った。 「え、でも、」 「行きだけ二人にしといたらええやん。そこは邪魔せんと。」 「平日やから新幹線もすいてるし。」 二人にごり押しされた、という事にして俺 らは二人と同じ新幹線に乗った。 「着替えもなんも持ってきてないけど。」 「まぁ、なんとかなるやろ。」 はしゃいでる二人をよそに俺はカイくんと槙緒くんの様子をこっそり見に行った。 二人も文句言いながらも楽しそうにしてる。 そんな光景を見ながら俺は多幸感に包まれていた。 帰りの新幹線は5人でいつものようにアホみたいにくだらない話をして、疲れて眠って、東京着いたら二人に起こされる。 そんな未来を見ていた。 それが俺が夢見ていた硝子窓の向こう側。 After... 旅行帰りの光景。 三人ははしゃぐだけはしゃいで爆睡。 俺と槙緒はそれを見ながら酒を飲む。 「珍しく大樹が一番楽しそうにしてたな。」 「そやな。こいつ酔っぱらって初めての家族旅行やったって言うてたで。」 「え?」 「そういえば颯太と凌平からは家族の話聞くけど、大樹からは聞いたことなかったな。」 「まぁ、別に知らんでもエエけどな。こいつが俺らのこと家族やと思ってるならそれでええ。俺もそう思ってるし。」 「じゃあ俺は何?」 槙緒は大きい目をまっすぐこっちに向ける。 「え、お、おかんやろ。」 「じゃあお前の嫁ってこと?」 「さぁな。」 そんなやり取りをしてると、 「二人は夫婦やろ。これからもずっと仲良くしてよ。」 と大樹が言った。 「お前起きとったんか。」 「起こされた。今回の旅行はほんまは二人に親睦を深めて欲しかってん。」 「親睦なんか深めんでも俺らはちゃんと仲良くやってるよ。安心し。」 「そう。ならいいんやけど。」 「でもありがとうな。お前のおかげで家族旅行できた。楽しかったわ、また行こな。」 そう言って大樹の頭を撫でた。 歳的に親父の歳でもないけど、俺は大樹がかわいく思えた。 「俺、頑張るから。」 「頑張らんでエエよ。もう十分頑張ってるんやから。それより楽しめ。お前が楽しそうにドラム叩いてる姿が一番好きやで。」 「...うん。わかった。ありがとう。」 そんなほっこりした旅行の後、槙緒はうちに泊まりにきた。 「楽しかった後に一人になるのは寂しすぎる。」 とか可愛いこと言いやがって。 「大樹に夫婦仲良くって言われたんやから仲良くせな。」 と俺が槙緒に抱きつくと、   「大樹のために仲良くするんやったらあっちいって。」 と言われた。 「それは口実やん。分かれよ、そろそろ。」 「あかん。分かってるけど、ちゃんと言葉にしてほしい。せっかくお口が付いてるんやから。」 「...はい。ちょっと疲れたんで癒してください。」 「かまへん。ほらこい。」 まるで漁礁のおっさんや。 「ムードがないなぁお前。」 「そうか?じゃあ、」 槙緒は俺を抱き締めると耳元で、 「今日は好きにしてエエよ。」 と言った。 ...もう無理や。 旅行中我慢してたものを全部槙緒にぶつけてしまいそう。 「お前煽んなよ。」 「煽らんと近づいてくれへんやん。」 「そんなこと、」 「そんなことある。」 「...ある、か。」 「透。」 急に名前で呼ぶ時はそろそろ我慢の限界。 ここからは夫婦の時間と言うことで...。
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