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優しい音楽 後編
親父のギターに触れてみた。
錆び付いた弦が鉄臭い。
知り合いの楽器屋に持っていって弦の張り替えとメンテナンスをお願いした。
「まじ?このギター親父さんのだろ?」
「もうそろそろいいかなと思って。」
「弾くの?」
「分からない。弾いたことないし。」
綺麗になったギターをスタジオで鳴らしてみた。
まるで鳴らされるのを待ってたような喜んでるような音が鳴った。
適当なコードを鳴らしてると颯太がやってきた。
「それ、親父さんのギター?」
「うん。弾く?」
「いや、弾けへんよ。」
「俺が弾くよりお前が弾いた方が喜ぶよ。」
「そんなことあらへん。」
それから颯太に教えてもらって色々弾けるようになった。
ギターを弾くようになって一ヶ月たった頃、ふとした瞬間にメロディーが降りてくるようになった。
それをギターで再現して気がつくと一曲できてた。
颯太に早速聞いてもらった。
弾き終わってもなにも言わない。
「あんまだった?」
「いや、ビックリした。」
「え?」
「それが陽ちゃんの奏でたかった音楽?」
「いや、分からない。」
「なんにせよ、陽ちゃんには才能がある。」
「いや、そんな大袈裟な。」
「その曲、一緒に完成させへん?」
颯太があまりにもキラキラした目でそう言うから断れなかった。
二人であーでもないこーでもないと言いながらギターを弾いてる時間はとても楽しかった。
颯太は俺より10も下だけど、そう感じさせない。
心が広くてまるで菩薩のようだ。
時間の流れが人と違うんだろうな。
だからか少々時間にルーズなとこもある。
それはお互い様だった。
俺は食べることにたいしてルーズだ。
気がつくと一食も食べてないこともある。
それを心配して颯太はよくご飯を作ってくれた。
颯太の料理は実験的だったけど、どれも不思議と旨かった。
彼とは波長が合うんだろうな、と思ってたら
「俺と陽ちゃんは波長が同じ気がする。」
と先に言われた。
曲が完成したのは彼らがデビューすると決まる一日前。
颯太が歌詞をつけてくれた。
その歌詞は少し独特だったけど、俺は大好きだ。
「みんなに御披露目しよう。」
颯太にそう言われ、ビデオ通話でみんなを呼び出して聞かせた。
光が特に大喜びだった。
俺はこの曲をみんなに渡してもいいと思ってた。
でも颯太が拒否した。
「これは陽ちゃんの曲やから。」
「でも歌詞つけたのはお前だし。」
「陽ちゃんのメロディーがあったから付いた歌詞やから。」
「もったいないよ。世にでないなんて。」
「いつか二人で世に出そう。俺と陽ちゃんで。時が来たら、な!」
そんな口約束、まさか二年たっても覚えてると思ってなかった。
光がバンドを抜けてから颯太は落ち込んでたし、しばらくギターを触れなかった。
でもある日突然スタジオに来て言った。
「陽ちゃん、俺と音楽やろう。」
あまりにも晴れやかな顔でそう言った。
断れるはずなかった。
何よりまた颯太がギターを弾く気になってくれてホッとしたから。
そして俺たちは二人でまた曲を作るようになった。
颯太といると俺の中からメロディーが沸き上がってきた。
彼に腕を引っ張られるまま、気がつくと俺はステージに立っていた。
人前でギターを弾くのは初めてだ。
緊張しまくってると、背中をバンと叩かれ、
「陽ちゃん、楽しむんやで!」
と笑った。
何故かスッと余計な力が抜けた。
必死でギターを弾いて歌った。
観客の声が聞こえたのは全部終わった頃、やっとだった。
ステージからはけて、俺は脱力した。
「楽しかった?俺はめっちゃ楽しかったぞ!」
「あんま記憶にない。でもまたやりたい。」
「俺も。やろう。」
彼は俺に抱きついて、
「愛してるで。」
と言った。
「俺も。」
と返すと腕を引っ張られ颯太の家に連れていかれた。
颯太の家は颯太が詰まってるような家だった。
ビールを渡され、ソファで飲んでると
「この家にあげたの、陽ちゃんが初めて。」
と言われた。
「え?バンドメンバーは?」
「呼んだことない。」
「聖域みたいなもの?」
「うーん、そこまでじゃないけど。」
「初が俺でよかったの?」
「陽ちゃんやから呼んだの。」
「それは光栄です。」
「この家は俺の心のなか。」
彼はそう言うと俺にキスをした。
「俺の愛してるを重くしたんは陽ちゃんやで。」
「いや、お前みんなに言ってただろ。」
「あの時はな。でも言えなくなった。俺の愛してるはもう陽ちゃんのもんや。受け取ってくれる?」
「...さぁ。」
俺は彼の髪に触れ、耳にキスした。
「ちょ、なんで耳やねん。」
「耳が一番大事なとこだろ?」
「そやけど。」
「俺だけのものにするのは勿体ない。でも俺の愛はお前だけにあげる。心のなかに入れてくれただけで十分。」
「そお?」
「抱きたくなったら抱く。それでいい?」
「え?今ちゃうん?」
「うん。俺たちはゆっくりいこう。」
「まぁ、ええけど。はぁー、何かちょっと緊張したのに。」
「...俺と音楽やってくれてありがとう。」
「こっちこそ。さぁ、次はどこでライブしよか。」
「え?」
「陽ちゃんが作った曲、いろんな人に聞いてほしい。」
俺はまた腕を引っ張られ未知の世界に連れていかれるんだろうな。
そう思いながら、それはそれできっと間違いないと思ってる。
親父のギターと彼がいればそれは何よりも信じられる未来と繋がってる。
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