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朝食がいつも、目玉焼きの理由
「結菜、お父さん今日も遅くなるし、夕飯は適当に済ませるから。結菜も適当に食べててくれ。夕飯代、置いていこうか?」
やっと起きてきたお父さんは、食卓につくと味噌汁を口にしてそう言った。
私は首を振る。
「目玉焼きで食べるから、いい」
お父さんは頷いて立ち上がる。ご飯や目玉焼きには手を付けていない。
「結菜は目玉焼き、大好きだもんな」
お父さんの言葉には答えずに、私は聞いた。
「もう食べないの?」
「ああ、あんまり腹が減ってなくて。すまないな、結菜。弁当もありがとう。じゃあ、行ってくるよ。夜の戸締まりはしっかりな」
「はーい。行ってらっしゃい」
いつもの会話。
朝ご飯も晩御飯も、こんな感じでほとんど一人で食べている。
お父さんは忙しいから仕方ない。
お母さんもこんな気持ちだったのかな。
一人になった私は、朝ご飯の続き。
目玉焼きの半熟部分を、食べる。
ムニュ、と柔らかい部分が口で弾ける。
目玉焼き、上手に焼けてる。
お父さんが食べなかった目玉焼きは、私のお弁当に入れちゃおう。
土曜日は、私の誕生日。
でもお父さんは、きっと覚えてもいないだろう。
結菜は目玉焼、大好きだもんな。
先ほどのお父さんの言葉が、頭の中でリフレインする。
分かっていないよね、お父さん。
朝食が目玉焼きなのは、作るのが簡単だから。
本当に好きなのは、お母さんが作ってくれた黄色いふわふわ卵のオムライス。
赤いケチャップが上にかかっている、普通のやつ。
お誕生日にはお母さん、オムライス焼いてくれていたっけ。
「お母さんのオムライス、食べたいな」
誰も答えてくれる人のないリビングで、私は一人、呟いた。
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