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「たける、思い出した?」
翌日の下校中、健はまたみゆきに呼び止められた。
今日も同じ、……かどうか健には判別できないが、やはり白一色のワンピースだ。子どもの日常着には相応しくない、気がする。
もちろん、そんな「難解な」表現ではなかったものの、遊んだらすぐに汚れそうだな、というのは真っ先に浮かんだ。
「だから知らない。おぼえてないんじゃなくて知らないんだよ」
他に応えようもない健のぶっきらぼうな返事に、みゆきは特に表情を変えることもない。
そして「誰にも言わなかったか」を確かめることもしなかった。
「遊ぼうよ、たける」
いきなり話を変えた彼女に誘われて、健は帰り道にある児童公園に足を踏み入れる。
両親にも学校の教師にも、日頃からしつこく「知らない人に着いて行ってはいけません」と言い聞かされている。「知らない人に話し掛けられたら逃げなさい」とも。
しかし、みゆきは同年代の子どもだ。「知らない『人』」には当たらないだろう、と健は迷いもしなかった。
「たける、ブランコ! わたしのるから背中おしてよ」
一気にブランコに駆け寄ったみゆきが、両手で左右の鎖を持ち座面に腰掛けて催促する。
「え~。じゃあ交代な」
「わかってる!」
健が何度か背を押したことで反動をつけて宙に高く舞い上がり、長い髪を靡かせたみゆきが涼やかな声を立てて笑った。
健は決して学校でも孤立しているわけではなかった。
通い始めた小学校には、幼稚園から一緒のメンバーも含めて親しい友人もきちんといる。
日々繰り返される「みんな仲良くしましょうね」という教師の言葉通り、クラスメイトとは楽しい日々を送っていた。
休み時間のたびに席を立っては集まって好きなアニメの話に興じ、昼休みは給食を競うように平らげてグラウンドへ飛び出す。
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