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番外編 本当の……? 其の一
「う、うわぁぁ! すっげぇ!?」
晧は思わず興奮の声を上げた。
肥料の撒き終えた土を、盛大に深く耕しているのは蒼竜の爪だった。器用に竜翼を水平にして神気も使いながら、その竜体を宙に留めている。そして少し竜翼を微調整し、土を耕しながら移動する姿に、晧の灰銀黒の狐耳がぴんと立ち、尻尾はぶんぶんと揺れていた。
あっという間に広大な畑が耕し終わる。
「あといくつか畑があるから、それも今日中に耕すんだって」
晧の横でどこか釈然としない表情を浮かべながら、そんなことを言うのは紫君だ。
「へぇぇ? なあ! もう種も蒔くのか!? 種蒔く時も紫君の番は蒼竜の姿なのか!?」
「種を蒔く時も蒼竜の姿でやってるよ。畝を作った後、今のあの大きさの尾が、種を蒔く時の穴を作るのに丁度いいんだって」
「種を蒔く時の穴……?」
「うん。竜尾の先端をずぼって畝に刺して丸い穴を開けて、そこに五、六個くっつかないように蒔くんだよ。あの爪で一個一個」
いくら人形に戻るのが面倒だからってよくやるよね、と言う紫君に対し、晧は目を綺羅綺羅とさせながら蒼竜を再び見る。
「あ、ちなみに今日はまだ種蒔きしないからね」
「え? そうなのか?」
「うん、今日は土作りだけだから。種蒔きするところも見てみたいんなら、また式で連絡するよ」
「是非、頼む! 紫君」
握り拳を作るほどの力強い口調でそんなことを言う晧に、紫君がくすくすと笑った。だが楽しそうだったその顔も、大きなため息と共に沈んでいく。
「──ん? どうしたんだ、紫君」
こてっと晧が首を傾げながら、狐耳をぴくぴくと動かした。そんな晧の姿に紫君が微笑みかける。だが再び深く息をついた。
「いや、ね……? また今年も城ですら食べ切れずに、保存食にしてもすぐいっぱいになって、知り合いに配りまくるんだなぁとか考えると、ちょっと気が遠くなるよね」
「──ああ……なるほど」
晧もまたどこか遠い目をして、紫君に応えを返す。
蒼竜の清白は銀狐の里にも届く。彼の清白は世話をする過程で、微量の神気を浴びている影響なのか、美味しいと評判だ。中でも香漬にすると絶品なのだが、晧自身はすっかり飽きてしまって、食べなくなっていた。現在は別の保存方法を考え中だ。
「最近じゃ僕、子供達に『清白の術師様』って呼ばれることもあるんだよ」
「……うわぁ」
さすがにその呼び名は嫌だと晧は思う。
再び深い深いため息をついた紫君だったが、でもね、と話を続けた。その口調にどこか艶めいたものを感じて、晧は紫君を見つめる。
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