番外編 銀狐、温泉に入る 其の六 ※

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番外編 銀狐、温泉に入る 其の六 ※

           ***  ようやく湯に浸かった二人だったが、(こう)は白霆の方を見ることが出来なかった。白霆(はくてい)と少し距離を取って、ただ景色を眺めている。  自分自身が信じられなかったのだ。  昨夜と今朝、そして今。  温泉で彼を見た、ただそれだけでこんなにも『白霆が欲しい』と思うなど、思いもしなかった。  自分から白霆を求めるような視線を向けて『竜の(こえ)』でいいようにされて、前戯もなしにいきなり繋がるような目合(まぐわ)いをされたというのに。晧の心と身体は充足感に満ちていた。  それが信じられない。  自分の中にこんなにも『力の強い者に従う隷属本能』が強いなど、思ってもみなかった。   「……晧、申し訳ございません。怒って……いらっしゃいますよね」    自分の機嫌を伺う白霆の言葉に、申し訳ない気分になる。すぐに安心させてやりたいと思うのに、戸惑いと葛藤がまだ心の中を占めていた。      だが白霆には素直になっていいのかもしれないと、そう思い始める。これから一生を共にする定められた番なのだから。   「……怒ってるわけじゃねぇよ。ただ……」 「──はい」 「ずっとお前を欲しいと思ってる俺がいて……お前の『竜の聲』も悪くなかったって思ってる自分が、信じられなかっただけだ」 「晧……」    気付けば後ろから抱き竦められて、狐耳に落とされる接吻(くちづけ)に晧は身を捩らせた。   「──っ、離してほしい、白竜(ちび)。じゃないとまた、欲しくなる」 「欲しがって下さい。私も貴方が欲しいです。まだまだ足りない。私達は結ばれたばかりなので当然です。『竜の蜜月』という言葉をご存知でしょう?」 「あ……これ、が……?」    文献で読んだことがあった。  自分の御手付(みてつ)きを得た真竜が、御手付きを愛でる為に巣籠りをする期間があると。   「はい。実は先程、宿の者にしばらくの間、離れに滞在したいとお願いしてきました。あと全ての食事を私が離れに運ぶことも了承して頂きました」 「……っあ……っ! な、んで……?」    胸の漿果に触れられて、晧の身体が跳ねる。  そういえば今朝、遅い朝餉になってしまったが、白霆が運んできたことを思い出した。晧は朝餉が遅れてしまったからだと思っていたのだ。    くすりと白霆が耳元で笑う。   「──だって……こんなに私のことを欲しがっている貴方を、誰にも見せたくないんです。いまは……私のことだけを考えて下さい。欲しがって、晧」 「あ……白竜(ちび)……っ!」    再び後蕾に宛がわれる雄蕊(ゆうずい)に、尾骶がつんと痛んで快楽が背筋を駆け上がっていく。   湯と共に媚肉の隧道を掻き分けて挿入(はい)ってくる、熱茎の愛しさに晧は酔い痴れたのだ。    その後、離れの宿の滞在期間中、晧と白霆は食事と睡眠以外はほぼ目合(まぐわ)い続けた。  時折会話もするが常にお互いに触れ合い、その温もりを確かめ合った。  だがこれが竜の蜜月の始まりに過ぎないことを。  晧はまだ知らない。  【番外編 銀狐、温泉に入る 完】 
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