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第15話 銀狐、熱に浮かされる 其の四
一体自分はどこで嗅いだのだろう。
この匂いはどこから来ているのだろう。
頭の中を快楽に冒されながらも、晧はすんすんと鼻を鳴らしながら、白霆の胸に顔を寄せる。
そんな晧の頤に触れて、くいっと上を向かせる優しい手があった。
すぐ目の前に白霆の顔がある。
初めて見る男の顔だというのに、初めて会ったような気がしないのは何故だろう。
そんなことを思っていると、白霆の形の良い薄い唇が、しっとりと晧の唇と合わさった。
口腔に流れてくる水と小さな丸薬を、晧は喉を鳴らして飲み込む。
唇が離れると、白霆の穏やかな銀灰が視界に入った。
「ちゃんと……飲み込めましたか?」
先程よりもどこか低く掠れたような優しい白霆の声に、晧はまるで子供の時分にでも戻ったかのように、こくりと頷く。
接吻は初めてだった。今日会った誰とも知らない者と唇を合わせたというのに、不思議と晧は不快に思わなかった。柔らかくて甘くて、寧ろもっと欲しいと感じてしまったのは、全て媚薬の所為だと心内で言い訳をする。
(……全部、この男の)
匂いがいけない。
懐かしいと思わせる、この匂いがいけない。
「これで少しは貴方の苦しみが軽減されれば良いのですが……ただ……」
白霆は晧を再びゆっくり寝台に寝かせると、卓子の上に置いてある布巾を手水に浸して絞る。
前髪を上げて、額に置かれる布巾が冷たくて気持ちが良いい。
「この薬を服用しても再び『激化状態』に戻るようでしたら、今度は幾度か熱を発散させなくては、ならなくなります。『激化状態』のみの繰り返しだけでは媚薬は中々抜けず、何よりも心の臓の負担が大きいのです。どうか心積もりを」
熱を発散させる。
その意味をぼぉうとする頭でようやく理解出来た時、再び足元から這い上がってくるかのような官能に、晧は息を荒くして身を震わせた。
身体の動かない自分の熱を、どう発散させるのか。
想像をするだけで、頭の中が煮え滾りそうだった。
だがしばらくして薬が効いたのか、頭の中をまるで蹂躙するようだった色欲への渇望が、すっと消えていく。
だが身体はまだ動くことがままならない。
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