7人が本棚に入れています
本棚に追加
「きゃー、陽奈ちゃん!?」
受付も済ませて、幹事を労い席に向かおうかと顔を上げたタイミングで甲高い歓声が上がったのを耳が拾う。
思わずそちらに目を向けた瞬間、宏基は己を取り巻く世界のすべてがスローモーションに切り替わった気がした。
「……み、くらさん」
無意識に零れた呟きに、津島が即座に反応する。
「あ、そーなの! 陽奈ちゃん、東京の大学来たんだよね。別に『六年一組二組の同窓会』じゃないからいいでしょ?」
二クラスで六年過ごし全員がクラスメイトのようなものなので、特に『何年何組』と対象クラスを区切らす学年全体の同窓会という括りらしい。
「そ、れはいいんじゃない? うん、別に」
津島の言葉に何とか相槌を打って、宏基は足元がおぼつかないまま奥のテーブルの方へ進んだ。
三倉 陽奈は、五年生の夏に名古屋へと転校して行った元クラスメイトだ。宏基の、淡い初恋の相手でもある。
芽生えてすぐに目の前から立ち消えた恋の。
全員が十代なのでソフトドリンクで乾杯を済ませ、食事しながらの近況報告を兼ねた挨拶も全員分一回りして終わった。
会場内ではもう自由に行き来が始まっている。
とりあえず周囲の懐かしい顔ぶれと会話を交わしながらも、宏基はグラスだけを手にタイミングを見て陽奈の席を目指して歩を進めた。
「三倉さん、久しぶり」
第一声に迷った末、無難に話し掛けた宏基に彼女は笑顔を返してくれる。
「わぁ、小野寺くん!」
陽奈の屈託ない表情、明るい声。
素っ気ない対応をされなかったことに、まずはほっと胸を撫で下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!