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◇ ◇ ◇
カフェを出て、美知と笑顔で別れを交わす。
二人で彼女の背中を見送って、俺が隣に立つ怜那に目を向けた瞬間だった。
「……沖さんって。ホントに『先生』じゃない時があったんだね」
感心したような彼女の台詞に、俺は気分だけじゃなく項垂れる。
「若かったんだ。忘れてくれ。今はちょっとはマシだから。──えーと、マシ、になってるといいなあ」
「大丈夫! 十分カッコいいよ、沖さん」
宥めるみたいに、ずっと年下の可愛い恋人が俺の背中を軽く叩いた。
やっぱ俺、情けねーよな……。
「ねー、私行きたいお店あるんだ。友達に教えてもらったの」
そのまま左手を俺の右腕に絡ませて腕を組むと、怜那は明るい声を上げる。
どこでも付き合うよ。お前の行きたいところ、やりたいこと、何でも。
俺が今、二十代も半ばを過ぎて少年みたいなときめきを覚えるのはお前だけだから。
そう。久しぶりに顔を合わせた昔の彼女は、どこまで行っても「かつて愛し合ったこともある、ただそれだけの相手」でしかなかった。
あくまでも、大学時代に同じ場所と時間の想い出を共有した友人としての存在。
──だから怜那。できることならこの先も、俺はずっとお前といたい。
~END~
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