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「付き合い出したのは卒業してからだよ」
言い訳じみているのは承知の上だ。でも、こればっかりは曖昧にしておけないからな。
怜那が高二のとき、俺はクラス担任で数学担当だった。
あまりにも数学の成績が悪いあの子に、結果的には二人きりの補習をすることになったんだ。
それまでただの「受け持ち生徒の一人」だった彼女の意外な面も知って、……確かに惹かれてた。今は潔く認めるさ。
真っ直ぐな怜那に告白されて、当然その場で断った。
相手は十六の教え子なんだ。気持ちなんか関係ない。
だけど、俺はそんな建前を押し通せなかった。七歳も年上の教師なのに。
それでも、在学中は『何も』してないのも本当なんだよ。
「……まあ、沖くんならそのあたりは大丈夫か」
信用されてるのか、そんな大胆なことなどできるわけないって侮られてるのか。
たぶん両方だな。
「それにしても綺麗な子ねぇ。ノーメイクなんじゃないの? ──沖くんて、見た目には拘らないと思ってたけど」
「拘ったことはないよ」
どこか茶化すような美知に、俺は真顔で返す。
実際にその通りだからな。俺は怜那の見た目に惹かれたわけじゃない。そんなのは二の次三の次だ。
「……成程?」
「とにかく、いつまでも一人でほっとけないから行こう」
敢えて反応せずにカフェを指した俺に、美知は一瞬間を置いて頷いた。
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