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「ねぇ、有坂さん。あたしはもう沖くんとは何でもないから。心配しないでね」
美知が唐突に過去の関係を匂わせる台詞を吐く。
コーヒー飲んでるタイミングじゃなくてよかった。絶対むせるか零してたな。
ぎょっとして固まった俺に構わず、怜那は静かに切り返す。
「心配はしてません」
「……随分、自信があるのね」
口調は普通だけど、心なしか引き攣った笑顔の美知。
おいおい、いったい何が始まったんだよ。俺一人を置いてくな!
正直、俺には今の状況がよくわからない。わからない、なりに、心臓が激しく波打ってる。
寿命が縮みそうなんだけど、なんて当事者なのに現実逃避しそうになった俺を引き留めたのは恋人の声だった。
「自信、とかじゃなくて。信じてるから。沖さんは絶対裏切ったりしない。他に好きな人できたら、ちゃんと私に言ってくれて、──さよならする、と思う」
「怜那……」
心持ち伏し目がちに淡々と話す彼女に、俺は思わず左手を伸ばして膝に置かれた彼女の右手を甲から握る。
テーブルの下で誰にも見えないように。
ふと俺の顔を仰ぎ見て微笑む怜那に、抱き締めたい気持ちを寸前で堪えた。
さっきとは種類の違う、うるさいほどの胸の高鳴りを表に出さないように必死で抑える。
今はダメだ。いくらなんでも場を弁えろ、俺!
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