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かつてヒトは天と地に分かたれた。
白い羽根で空を舞い、光魔法を操る天流族。そして、黒い角を持って地を駆け、闇魔法を操る地脈族。
ふたつの種族は互いに世界の覇権を主張して、長い長い、気の遠くなるような争いを繰り返した。結果、空は赤く染まり、大地は荒れ果てて、世界は死にゆこうとしていた。
わたしのような孤児なんて、よくある話の欠片に過ぎなかった。
その天敵である天流族が、地脈族のわたしを助けた。一体なんのつもりだろうか。不信をあらわにしたのがわかったのだろう。相手は苦笑したようだった。
「僕は、この不毛な争いを終わらせたい。そのために、君のように、戦の余波を受けて苦しんでいる子どもたちを助けたいんだ」
きれいごと。わたしにもわかる。
でも、彼の声は真剣で、微塵もふざけてないないこともわかる。
「今は信じてもらえないかもしれない。だけど」
頬を撫でていた手がくちびるに触れて、名残惜しそうに離れる。
「もし、僕を信じてくれるなら、また会いたい」
ばさり、と。
羽根をひるがえして彼は飛び去る。
赤い空に、白い翼はやけに明るく見えた。
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