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「どうしたんだい?」
次の日に現れた彼は、怪訝そうな声で首をかしげた。腕の中に、おいしそうな木の実を抱えながら。
その木の実が欲しい。だけど今は、それ以上に。
『あなたを、帰さない』
天流族には通じない、地脈族特有の言葉を放つと同時、そこかしこの建物の陰から、黒い角を生やした男たちが飛び出した。
『軽羽根が!』
『子どもをたぶらかして!』
『天流は全員くたばれ!』
大人たちは罵声を撒き散らしながら手にした棍棒で彼を叩き、白い羽根は折れて、空と同じ赤に染まった。
彼らは、彼に縄を打って引きずっていった。
これでもう、彼はわたし以外に笑いかけることは無い。
その時のわたしは、生まれて初めて心の底からわき上がる安堵に、口元を緩めていた。
天流族を捕らえる手助けをしたとのことで、わたしは、れっきとした地脈族の一員として認められ、剣と地位を得た。
戦のゆくえを決める会議に呼ばれ、大人たちに混じって話し合いを重ねる日々のうちに、彼のことを、頭の片隅に追いやって、忘れかけていた。
そして、数ヶ月後、嵐がやってきた。
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