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地脈族の街に、無数の火球が天から降り注ぐ。
火球は建物を突き崩し、燃え上がらせ、全てを灰燼に帰さんとする。赤い上空を、幾つもの白い翼が舞う。
「地脈族に天罰を!」
「我らの王を奪った汚き者どもを滅ぼせ!」
天流族の怒声が響く中を、わたしは剣を振るいながら走った。その間にも、疑問は脳内を巡る。
王とは誰だ?
その考えに至るのを待っていたかのように、わたしの目の前に、一翼が降り立った。
「久しぶり」
彼だ。わたしに食べ物を与えてくれた、わたしが大人たちに売った、天流族の。
あくまで穏やかに、彼は呼びかける。炎に照らされて、端正な顔が初めて見える。
「天の仲間が、僕を助けてくれたよ」
彼は笑っていた。あくまで、穏やかに。
だけど。
「君は僕の理想を理解してくれなかったのだね」
一転して放たれる冷たい声。
ちがう。わたしは首を横に振る。
わたしは、ただ、あなたに、わたしだけを見ていてほしかっただけ。なのに、久しぶりに見るあなたは、どうしてそんなに、冷え切った目でわたしを見るの。
「僕を裏切った対価は、きちんと払ってもらうよ」
彼がこちらに向けて手をかざす。放たれた光が、わたしを直撃する。脳をゆさぶるほどの衝撃に、悲鳴をあげたつもりが、言葉になっていなかった。
代わりに、咆哮のような音が喉からほとばしる。
「天流族の施しものを口にした地脈族は、天の竜に姿を変える」
今にもかき消されそうな意識の中、彼の宣告が朗々と響き渡った。
「君たちは、戦を終わらせるための、遣いになるんだ」
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