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天と地に分かたれたヒトの争いは、千年に渡って繰り広げられた。
しかし、ある王の代に、戦局は大きく動く。
彼は地脈族の子供たちに、『竜の種』を埋め込んだ食料を配り、天流族の尖兵となしたのである。
白く輝く竜は空を舞い、光の奔流を口から吐いて、地脈族を次々と焼いた。
天流族の勝利近しと天の民が喜んだ時、だが、事態はまたも変遷を見せた。
焼く地脈族がいなくなった竜たちは、今度は黒い鱗に変わり、天脈族の住処を次々と襲った。
王でさえ制御できなくなった竜は、そのほとんどが撃ち落とされながらも、最後まで残った一体が、黒い炎の中に王を沈めたのだ。
そうして、世界から争い合う者は一人たりともいなくなった。
ただ一匹、焦土と化した世界に残った竜は、瓦礫の山の一角に降り立ち、静かに眠りについている。
まるで、もう訪れることの無い誰かを待つかのように。
『久しぶり』
会えたら、そう言いたいかのように。
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