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「久しぶり」
あくまで穏やかに笑う彼に、わたしは返す言葉を持たなかった。
わたしは、孤独だった。
戦の嵐吹き荒れるこの世界で、幼い頃に家族を炎の中に失い、手を差し伸べてくれる者は無い。
腐臭漂う路地裏で、がりがりに痩せた身体を横たわらせ、死神の迎えを待つばかりだった時。
光が、差した。
「生きているか。動けるか」
かたわらに膝をついた誰かが、わたしの黒髪を撫ぜる。それだけで、軋んで悲鳴をあげていた身体が楽になり、温かさに包まれる。
「これを食べるといい」
差し出された白パンのようなふかふかしたものを目にして、わたしは一も二もなく飛び起き、受け取るとむしゃぶりついた。弾力があって、甘くて、脳のてっぺんから爪先まで、生きる力がみなぎってくるかのようだった。
命の食事をすっかり食べ尽くしてから、わたしは礼を言っていないし、払えるものも何も持っていないことに気づき、震えた。対価を出せない者は、蹴られ殴られ、ごみのように捨てられる。この先の運命が変わりなどしないのだと、恐怖に歯が鳴った。
「そんなに恐れなくともいい」
そんなわたしの頬に、細くて綺麗な指が触れた。
逆光で顔は見えないが、その背に白い羽根を背負っていることは、たしかだった。
わたしは再び震えた。
このひとは、わたしたちの敵、なのだと。
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