プロローグ

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プロローグ

ーー目の前に、何かが転がっている。 最初は周囲が暗すぎて、それがなんなのかはわからなかった。 自分がどこかに立っていて、なにかを見下ろしている。彼女は何度かまばたきをした。 やがて、そこがビルに挟まれたどこかの通路であることがわかり、落ちているなにかも判明した。 それはおそらく、人の死体だった。すぐに断言できなかったのは暗かったからではない。欠けている部分があったからだ。 その体には半身がなかった。腰から下、両足だけが奇妙に横たわっている。 上半身がすっぽりとなくなっている。そのなくなった顔や腕や胴体は、どこにも見当たらない。 いったい何が起こったのだろうか。辺りには血が散乱している。事件。そんな言葉が頭に浮かぶ。そう、彼女の手にもべっとりと血がついている。 いや、手だけではない。彼女の口にもだ。口紅を乱暴に塗ったかのように、彼女の口元は赤く汚れていた。 彼女は冷静に死体を見下ろしている。その顔に、恐怖の類いは一切浮かんではないない。むしろ、喜んでいるのかもしれない。恍惚な表情を浮かべている。 彼女は自分の指で口元に触れ、たっぷり血のついた指をなめた……。
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