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「ああ。やっぱり好きだな、私」 「鳴瀬はいつもそう言ってくれるな」 「良いなって気持ちは直接伝えるのが一番うれしいって教わったからね」 「そりゃうれしいけど」 「うん。ほんとに素敵」  鳴瀬は手紙を見つめていた瞳をこちらに向ける。  読めない恋文がかさりと音を立てた。 「文字も、君も」  ……ああ、まただ。  まったくこいつは、ほんとうに。  何度僕の時間を止めれば気が済むんだろう。 「で、今日の一行目はなに?」 「今日スタートかよ」 「こういうのはある日突然やって来るものだよ、塔野くん」  にしし、と鳴瀬は悪戯っぽく笑う。そんな表情は初めて見た。まだまだ僕は彼女のことを知らないんだと気付く。  観念するしかないな。  にしても、ラブレターの一行目なんてちょっと考えればわかりそうなもんじゃないか?  想像力が足りないのか、それとも文字が好きな彼女もやっぱり言葉にしてほしいものなのか。  どちらが本当なのか……ま、どっちでもいいよな。  文字化け前後で言葉の意味は変わらないように、どちらが本当でもこの温度は変わらないんだから。 「わかったよ」  そう答えると、鳴瀬は嬉しそうに微笑みながら薄青色の便箋に目を向けた。窓の外から秋色が差し込んで彼女の横顔を色付ける。  僕はそんな美しい光景を眺めながら。  もう一度、化かしようのない気持ちを口にした。 (了)
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