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6
遠くから野球部の掛け声が聞こえた。
そこにテニス部の打球音と、陸上部のピストル音が加わる。
「……これ、なんて書いてあるの?」
「え?」
しばらく沈黙が続いてから、鳴瀬は突然そう切り出した。
思わず彼女のほうに目を向ける。僕は耳を疑った。聞き間違いであってくれ。
「今なんて?」
「なんて書いてあるか教えてほしいなって」
いや。いやいやいや。
ラブレターを本人に音読させるなんて鬼畜すぎないか。
「えっと、それはちょっと」
「あ、毎日一行ずつとかでもいいよ」
「むしろキツくない?」
「なんでもいいけど読めるようになりたいの」
一歩も引かない鳴瀬は開いた便箋の裏面をこちらに見せるように持ち上げる。
その後ろに隠れるようにする彼女の耳は夕焼けと同じ色をしていた。
「私だけの手紙にしたいんだ、これ」
ずるいな、と思った。ずるすぎる。
そんなこと言われたら断れないだろ。
「文字化けが治ったらちゃんと読める文字で書き直すからさ」
「でもいつ治るかわかんないんだよね」
「明日治るかもしれないよ?」
「あ、そうだ。じゃあ毎日代筆係がんばってるお礼ということで」
「う、それは……しかたないな」
「やった」
嬉しそうにそう言った鳴瀬はぴょんと小さく跳ねる。
文化祭パフォーマンスの演舞とは程遠い、女の子のかわいいジャンプだった。
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