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「はい、これ今日の授業分」
職員室にあるコピー機から吐き出された紙束を鳴瀬は差し出した。僕はそれを受け取りながらお礼を言う。
「ありがとう。わざわざごめんな」
「いえいえこれも代筆係の仕事ですから」
僕と鳴瀬は並んで教室へ戻る。こうして二人きりになる機会はそうないので、これはこれで悪くない。
放課後になったばかりだというのに窓の外に見える空はすでに色を変え始めていて、もうすぐ秋なのだと知る。
「でも大変そうだよねえ、文字化け病」
「鳴瀬はまだかかったことない?」
「うん。でもいつか私もかかるんだろうね。原因不明らしいし」
「いつ治るかも、かかるかどうかも不明らしい」
「不明すぎ」
『文字化け病』は数年前に突如として現れ、世界中に急拡大した疾病だ。
病といっても体調に影響はなく、症状はいたってシンプル。『書いた文字がすべて化けてしまう』のだ。
専門家によると言語認識と出力に齟齬が発生してうんぬんかんぬんとのことだが、つまり確たる原因はよくわかっていないようだった。
それだけでなく発生源、感染経路、発症期間なども判明しておらず、ある日突然発症してはある日突然治るらしい。
「数日で治る人もいれば、数年前に発症してまだ治ってない人もいるんだって」
「じゃあ明日治ってるかもしれないね」
「もしくは卒業文集書けないかもだな」
「暗いなあ、塔野くんは」
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