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「はい、これ今日の授業分」
「ありがとう」
「いえいえ」
コピーしたページの束を受け取ってお礼を言う。これももう五度目だ。
「明日から週末だね。土日ゆっくり休めば文字化け病も治るかも」
「ああ、そうかもな」
金曜日の放課後は静かだった。部活動の声は聞こえるが、教室に生徒が残っている気配はない。帰宅部は早々に遊びにでも行ったのだろうか。
僕たちはしんとした廊下を歩いて教室に戻る。
「文字化け病が治ったら一番に誰に伝えたいですか?」
「金メダルでも獲ったのか僕は」
「こういうの早めに決めとけば治ったとき焦らずに済むからね」
「ほんとかよ」
僕が笑うと、釣られるように鳴瀬も笑った。壁に声が反響して広がっていく。
楽しい。
文字が書けなくなったおかげで好きな人とお近づきになれて、二人でたくさんしゃべって笑って並んで歩いて、すごく楽しい。
幸せだ。いつまでもこんな時間が続けばいいのに。
──なんて、ほんと馬鹿だな。
「あ、でも」
「ん?」
「何を一番最初に書くかは決めてる」
鳴瀬は「へえ、なになに」とこちらを向いた。
僕はブレザーのポケットに手を入れる。取り出したものを見て鳴瀬は首を小さく傾げた。
「封筒?」
「綺麗でしょ」
「うん。空みたい」
「好きな色なんだ」
正確には、最近好きになった色だ。
「開けてみて」
「え、いいの?」
「うん」
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