4人が本棚に入れています
本棚に追加
「あんた俺のことどう思ってたんだ?」
「どうって?」
男は、怪訝な顔をする。
私は、少し言い淀みながらも話す。
「俺って出来が良くなかったじゃん。
頭も悪いし、運動も出来ないし、いいところなんて一つもなくてお袋なんていつも怒ってたじゃんか。
それなのにあんたは何にも言わなかった。いつも黙って座っていた。だからどう思ってるのかまったく分からなかった。
なあ、どう思ってたんだ?」
私に言われ、男は困ったように顎をさする。
「どうって言われてもなあ」
男は、宙を見上げる。
「可愛いと思ってた」
「はあっ?」
男の予想もしなかった返答に思わず素っ頓狂な声を上げる。
「いつだって可愛いと思ってたよ。どんなに出来が悪くたってなんだってお前は俺の大事な存在だ。可愛い以外に何がある?」
むしろお前こそ何を言ってるんだという口調で男は言う。
「でも、あんた達の理想とは違ったろう?」
「でも、ちゃんと就職して働いてくれたろう。結婚して孫も見せてくれたろう。曲がった道にも行かなかったろう。それに・・・」
男は、真剣な表情で俺と向き合い、にっこりと笑いかける。
最初のコメントを投稿しよう!