大宮沙良

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大宮沙良

帰りの電車に揺られていると、隣の二葉が言った。 「沙良っ、どうだったのよ」 どこかにやけた表情で、探るような口ぶりだ。 「どうだったって、何が」 「えー、思い当たることないの?可哀想だなぁ屋代くん」 あぁ、昼のことか。 別に、言えるほどのことは無かったんだけどなぁ。 でも。 「あー、なんか今度どこか行かないかって誘われて」 一応考えとくと答えたけれど、正直行く気にはなれなかった。 「えぇっ、もうデート?早くない?いや早くないか。そりゃデートくらいするよね、付き合う前に何回か」 「え」 「いい感じじゃないの?そのまま付き合って、そしたら意外とすぐかもよ!」 「すぐって、何が」 「何言ってんの沙良。それは沙良が一番良く分かってるでしょー」 私はそんなつもり、ないのに。 うーん、でも。 「屋代くんいい人じゃん。いつも沙良のこと見てるし、完全に狙ってるよね。優しいし良いと思うよ」 そうかな。 でも二葉が言うのなら、そうなのかも。 もう振り回されるような恋愛には疲れたし、丁度いいタイミング。 屋代くんだったら、大丈夫そうだし。 恋愛って、何なんだろうな。 色々な形があるとは、そりゃあ、言うけれど。 色々な形があるってことは、面倒ってことだ。 それならいっそ。 そこまで考えて、思考を停止した。 二葉だけを見ていられれば、それで良かったのに。 結婚とか子育てとか、そういうことにも意欲が無いわけではないけれど、今すぐにという感じでは…。 私達は、もう大人になってしまった。 それでも、まだ女子高生みたいなテンションで恋愛話を語れる二葉は、何だか凄い。 結婚して、夫婦になって、子供ができて。 そしたら? そしたら、二葉とは? 当たり前に迎えるであろうと、親や世間が思っている、数々の節目。 幼稚園を出たら小学生と呼ばれ、卒業したら中学生。 高校生、大学生ときて、あっという間にこんなところまで来てしまった。 小さい頃は、良かった。 生きてるだけで、形容される名前が変わっていく。 小学生が中学生に。中学生が高校生に。 私達は、もう、そうはいかない。 自分で動かないと、そんなこともできないんだ。 はあぁ。 大きく息を吐いた。 スマホの電源をつけ、昼休み交換した屋代くんのLINEを開く。 自分を奮い立たせるように息を吸い込んでから、『予定があったので、今度行けることになりました!楽しみです!』と打ち込む。 私にしては珍しい、可愛い絵文字も添えて。
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