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小山二葉
沙良は少しずつ、将来のために歩き始めている。
私が、叶わない夢を見ている間。
沙良のことばかり見ているんじゃ、もう駄目なのに。
乗客の少ないバスに揺られながらそんなことを考えていると、沙良が言った。
何の前触れもなく、傘持ってくるの忘れちゃった、みたいな口ぶりで。
「私ね、ちょっと色々あってね。あの、言いづらいんだけど」
「ん?」
「あのね、職を、変えてみようかと」
「え?」
「もう当たりはついてるの。引っ越し先の、近くの会社でね。人手不足みたいだから、雇ってくれそうで」
「…へ、へぇ。良かったね!」
どうにか、正気を保ったつもりだった。
「ありがとう!それでね。屋代くんと色々あって」
楽しそうに語る沙良の声が、段々と小さくなっていく。
車窓の向こうを見つめていると、遠ざかっていく景色に引き摺られていくようだった。
ふと公園で憩う夫婦の姿が目に映り、反射的に目を逸らす。
沙良はもう、私の手の届くところにはいない。
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