小山二葉

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小山二葉

さらさらと落ちていく花びらのように、私の思いも、散っていく。 まるで最初から、何もなかったかのように。 なーんて、ポエマーになってみる。 まぁ、そんなの柄じゃないんだけど。 あっ。 けたたましい音が部屋に響く。 警報のようだと、不覚にも思う。 せっかく感傷に浸っていたのに、遮るように携帯が鳴った。 くるみ割り人形。 沙良が高校生の時着信音にしていたから、真似して以来、変えられずにいる。 沙良の着信音は、もうとっくに変わっているだろうな。 誰からだろう。 もしかして、沙良からとか…。 なんて、そんなはずないのになぁ。 大体、沙良から電話がかかってくるなんて滅多にない。 全部LINEで済ませる人だもの。 よほどの急用じゃない限り。 ちらと画面に目を落とすと、表示されていたのはいつもの「母」。 正直、ああまたか、と思ってしまう。 何コール目だろうか、重い腕で電話に応じる。 当たり障りのない会話を続けていると、一瞬、母親の声に静けさが混じる。 何かを言いたげな素振りが目に浮かんだ。 きっとそうだ、その後に続く言葉は。 もう何度目だろう。 「二葉あんた、いい人とかいないの?そろそろいい歳でしょ?」 恩着せがましい言葉が耳に届く。 あっちから電話してきて、いつもこうだ。 自分の結婚が早かったからって、しつこすぎないか。 何も押し付けなくても。 「うーん、大丈夫だって。別に心配しなくていいよ。そういうのは自分のペースでやるから」 「そう、ならいいけど…。お母さんも早く孫の顔が見たいって言ってるわよ」 沈黙。 「じゃあ、私もう出るから」 苛立ちを隠せずに、話を切り上げてしまった。 「あっ、話は終わってないわよ」 ブツッ。 呼び止める声が聞こえたけれど、無視して電話を切る。 あの母親に、私の気持ちが理解される日は来ないだろう。 どれだけ話しても、伝わることはないはずだ。 大体、23で駆け落ちしたような人に分かってたまるものか。 「私が好きなのは」 呟きかけて、止まる。 もう春なのに、もう終わったのに、何かな、これは。 そうだ。 もう春だよ。 お別れには丁度いい季節じゃない。 いつだって、叶うはずもない願いを抱き続けて、届くと信じていた。 恋愛の延長線上にあるものが結婚。 そんな考えに、憧れさえ抱いていた過去の自分。 そんな考えを、「幻想」と一蹴できるようになってしまった自分。 何もかも、中途半端じゃ駄目なんだ。 沙良にはもう1歳の子供がいる。 年賀状に印刷された、可愛い赤ん坊が脳裏に蘇った。 私みたいに、立ち止まってその場で足踏みしているだけじゃない。 沙良はもう、人生の切符を手にしている。 だったら私も、頑張るしかないのか。 吐息が漏れて、溢れる。 それを、溜め息だとは認めたくなかった。 あぁそうだ、仕事。 急いで用意しなきゃ。 時計の針は、私がいくら叫んでも待ってくれない。 そんなことが、今更分かった。
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