01《ハー/ロイ/辰巳/フレ》

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01《ハー/ロイ/辰巳/フレ》

フレN:海上の高級ホテルとの異名を持つ大型客船、クイーン・オブ・ザ・シーズ。その(かなめ)とも言えるホテル部門を執り仕切るのは、三人の敏腕マネージャーと総支配人だ。中でも三十三才という異例の若さでマネージャーへの階段を駆け上がって来た男は、その名をハーヴィー・エドワーズと言う。  些か生真面目に見える彫りの深い顔立ちと、187センチのすらりとした長身に紳士然とした佇まい。読書と紅茶を好み、ゲストの如何なる要望にも即座に対応する。完璧なクイーンズイングリッシュを操る彼は、生粋のブリティッシュである。  これは、そんな若き敏腕マネージャーの多忙な私生活をクローズアップしたドキュメンタリーである。……かもしれない。 ハー:【ゴーストとティータイム】 フレN:ハーヴィー・エドワーズが見覚えのない東洋人の男を船内で発見したのは、寄港地のバルセロナを出港してすぐの事だった。  黒く艶やかな髪と澄んだ黒い瞳。東洋人にしてはしっかりとした躰つき。一度見れば絶対に忘れはしないはずの容貌に見覚えがないというのは、ホテルマネージャーとして看過できない事態でもあった。 ハーM:――密航者にしては堂々とし過ぎているが…。 ハー:「失礼ですがお客様」 辰巳:「ああ?」 ハー:「失礼ですがお客様、こちらはクルー専用の通路となっております。ゲストIDを拝見させていただいても?」   辰巳、ハーヴィーの名札を見る。 辰巳:「ホテルマネージャー……か。ちょうどいい。あんたこの船に詳しいだろ」 ハー:「は?」 辰巳:「悪ぃがロイクって野郎の部屋に案内してもらおうか。俺の身分は後でゆっくり説明してやるよ。……この船のキャプテンがな」 ハー:「いったい何を言っている。私はIDを見せろと……」 辰巳:「ホテルマネージャーってんなら、マスターキーくらい持ってんだろ」 ハー:「持っていたとしても渡す訳がないだろう」 辰巳:「だったら仕方ねぇな」    辰巳、ハーヴィーを羽交い絞めにする。 ハー:「何を……っ!」 辰巳:「大人しくしろよ。怪我したくねぇだろ?」 ハー:「少し、待ってくれ。あなたはいったい……」 辰巳:「俺ぁただの日本人だよ。この船のキャプテンの知り合いで、辰巳ってんだ。お、これか」 ハー:「っ、待て……!」 辰巳:「はッ、やっぱり持ってんじゃねぇか。最初から素直に出せよな阿呆が」 ハー:「な……」 辰巳:「おら、返すぜ」 ハー:「ミスター、タツミ…。何故ロイクの部屋に?」 辰巳:「あの野郎がフレッドを監禁してっからさ。あんた見たところフレッドとは職種が違うようだから知らねぇだろうが、今さっきこの船を出港させたのはフレッドじゃねぇ。なんなら確かめても良いぜ?」 ハーM:――確かに、フレッドの所在が知れないとの連絡は受けているが……。この男はいったい……。 ハー:「わかった、あなたの言葉を信じよう…。だが、腕を放してくれないか」 辰巳:「それは出来ねぇな。あんたに騒がれると面倒なんだよ」 ハーM:――出航直後のこの時間では、誰かが通りかかる可能性は低い、か。 辰巳:「おら、行くぞ」   ハーヴィーと辰巳、通路を歩く。 ハー:「どうしてキーを奪わなかった?」 辰巳:「ああ? そんなもん失くしちゃああんたのクビが飛んじまうだろぅが。俺ぁロイクの野郎に用事があるんであって、あんたにゃ恨みなんぞねぇよ」 ハー:「……そうか」 辰巳:「それに、俺はこの船に詳しい訳じゃねぇしな。案内がなきゃ野郎の部屋に辿り着けねぇだろ」 ハー:「それはそうだが……」   間 ハー:「ここがロイクの部屋だ」 辰巳:「開けろ」 ハー:「もし、あなたの言ったことが事実でなかった場合は、セキュリティーに連絡させてもらうぞ」 辰巳:「ああいいぜ?」   ロイクの部屋の前。ドアを開ける。 ハー:「な……!?」 ロイ:「やあハーヴィー、今度は君がまざりに来たのかな?」 ハー:「ふざけるな!」 辰巳:「悪ぃが後にしてくんねぇか」 ハー:「あなたは……」 辰巳:「あんたの望みを叶えてやるよ、ロイク。俺の目の前でそいつ抱かしてやろうじゃねぇか。そん代わり、今後そいつに指一本触れんじゃねぇ。あんたへの借りは、これでチャラのはずだからな」 フレ:「辰巳……どうして…」 辰巳:「あぁん? てめぇの魂胆なんぞ見え透いてんだよ阿呆が。だいたいてめぇ、そのまま抱かれたって弱み作るだけだろうが。ンな事もわかんねぇほど馬鹿みてぇに熱くなってんじゃねぇよ、このタコ」 フレ:「それは……」 辰巳:「悪かったなあんた。ちっと手荒な真似しちまったが、もう帰っていいぞ」 ハー:「そんな謝罪が通用するとでも思っているのか? それに、いったいこの状況はなんだ。きちんと説明してもらうぞフレッド! それにロイク、あなたもだ。キャプテンを監禁するなんて馬鹿げた真似を!」 ロイ:「誤解だよ、ハーヴィー。僕はフレッドを監禁なんてしてない」 ハー:「ならどうしてフレッドがあんな恰好をしている? しかもそこの日本人の言葉はどう説明するというんだ」 ロイ:「(溜息)まったく、とんだ邪魔が入ってしまったようだ……」 ハー:「やはりあなたは良くない事を考えていたようだな」 ロイ:「少し、失礼するよ」    ロイク、ハーヴィーを締め落とす。 ハーM:――え…? ハーN:何が起こったのか分からない。     あっという間に、私は音も色もない世界へと落ちていった。
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