04《ロイ/ハー/フレ/クリス》

1/1
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

04《ロイ/ハー/フレ/クリス》

フレN:船内にある執務室。目の前のデスクに両肘をつき、ハーヴィーは組んだ両手に額を当てた。視界に入る木目を眺め、考える。 ロイ:『今日から、君の部屋はここ。誰かに僕との関係を話して助けを求めようなどとは思わない事だね。その時は君じゃなく、相手がこの世界から消える事になる。よく覚えておくと良い』 ハーM:――いったい、どこで何を間違えてしまったのだろうか。何故あんな男が統括など…。まあ、セキュリティー部門のスタッフはみな、多少強面だったり、態度が粗野だったりはするが……、あの男はどこか違う。  助けを求めるなと言いながら、自由にさせているのも分からない。確かにセキュリティーという業務上、船内の監視カメラの映像はロイクに筒抜けになっていると考えていい。だが、音声までは拾えないはずだ。電話で助けを求めることは、可能ではないのか? いや、それで終わるはずもない、か……。 ハー:「(溜息)どうすればいいんだ……」 フレN:めぼしい解決策も浮かばないまま、ハーヴィーはその日、上の空で仕事を終える事となった。  引継ぎを済ませるうちに、ハーヴィーの気持ちはだんだんと沈んだ。ロイクの部屋に戻らなければならないと思うだけで、腹の奥底に数えきれないほどの針が溜まっていくような気分を味わう。    ハーヴィー、食堂に移動する。 ハーM:――食堂で食事を摂るのは、久し振りだな。 ハー:「サンドイッチとアイスティーを頼む」 クリス:「ホテルマネージャーがこんなところで食事とは、珍しいな」 ハー:「クリストファー」 クリス:「よう。疲れているようだが、何かあったのか?」 ハー:「何でもないさ」 クリス:「そうか?」 ハー:「ああ。気を遣わせてしまってすまなかったな」 クリス:「なに、構わんさ。珍しい場所で珍しい顔を見かけたので声をかけただけだ」 ハー:「それならいいが」 クリス:「席なら壁際が空いてる」 ハー:「ああ、ありがとう」 クリス:「じゃあな」    間 ロイ:「君は、クリスとも仲が良いのかな?」 ハー:「ロイク……」 ロイ:「やあハーヴィー。ご一緒しても?」 ハー:「断る」    ロイク、構わずハーヴィーの向かいに座る。 ハー:「断ると言ったはずだが?」 ロイ:「疲れた顔をしているね」 ハー:「(溜息)おかげさまでな」 ロイ:「ふふっ、僕のせいと言いたいのかな?」 ハー:「その通りだ」 ロイ:「それで?」 ハー:「何がだ」 ロイ:「君は、クリスとも仲が良いのかな?」 ハー:「同じ船で働いてるんだ、顔を合わせれば話くらいする」 ロイ:「それだけ?」 ハー:「それだけとは?」 ロイ:「クリスとも、フレッドみたいにベッドの上でのお付き合いがあるのかと思ってね」 ハー:「確かにクリストファーの遊び癖はクルーの間でも有名だが、私が誘われた事は一度もない」 ロイ:「それは、誘われたら乗るという事かな?」 ハー:「あなたが私をどんな人間だと思っているのか知らないが、一応言っておくならば、私はこれでも真面目で通っている。クリストファーが声をかけることは万に一つも有り得ない話だ」    間 ロイ:「美味しい?」 ハー:「は?」 ロイ:「サンドイッチ。美味しいかい?」 ハーM:――いったい急に何だというんだ……。 ハー:「食べたいのなら、食べればいい」 ロイ:「食べさせてくれないの?」 ハー:「はぁ?」 ロイ:「食べさせてくれないの?」 ハー:「食べさせて…欲しいのか?」 ロイ:「ひと口で構わないよ」 ハー:「ロイク…その、せめて場所を弁えないか…?」 ロイ:「ここでなければ、良いってことかな?」 ハー:「待ってくれ、今のは、その…言い方が悪かった…」 ロイ:「なるほど。そういえば君も、フレッドを気に入っていたんだったね」 ハー:「それが何だ」 ロイ:「なら、案外僕を好きになれるかもしれないよ?」 ハー:「はぁッ!?」    ふたり、周囲の注目を集める。 ハー:「(咳払い)いったいどういう理屈でそんな話になると?」 ロイ:「それは僕とフレッドが似ているから」 ハー:「確かに顔は似ているが、性格は全然似ていない」 ロイ:「そうかなぁ。確かにフレッドは最近少し丸くなったようだけれど、本質は変わらないよ」 ハー:「確かに…似てはいるが、フレッドはあなたのように他人を物のように扱ったりはしない」 ロイ:「(大笑い)」 ハー:「っ!? 少しは周囲に気を使え…!」 ロイ:「えぇー? ははっ、いや…うん。そうか、そうだよね」 ハー:「何がおかしい」 ロイ:「うん? 君の純粋さが、かな」 ハーM:――なんて顔をしてくれるんだ。 ハー:「あなたは…、訳がわからない…っ」 ロイ:「おかしいなぁ…ミステリアスな男はモテるって、どこかで聞いた覚えがあるんだけど…」 ハー:「馬鹿馬鹿しい」 ロイ:「じゃあ、僕の部屋でなら君はサンドイッチを食べさせてくれるんだね?」 ハー:「は…?」 ロイ:「それじゃあ、テイクアウトをお願いしてこよう」 ハー:「待っ……(溜息)。何だっていうんだ……」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!