響いていた

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響いていた

  響(ひびき)が事故で亡くなってから4年経って、小学6年生だった俺も気づけば高校1年生になっていた。響はもういない。それでも俺は変わらずサッカーを続けていた。  高校はサッカーの強豪校へ進学した。響とサッカーをしていた小学生の頃は海外の少し長めの髪をなびかせたイケメンのサッカー選手に憧れて髪を伸ばそうとしていたが、邪魔に感じてからはずっと短髪のままだった。響はサラサラの黒髪で上品な佇まいだったから、まるで育ちの良いお坊ちゃまのようだった。響はガサツな俺とは雰囲気も性格も正反対だったから、なぜ一緒にいるのかと昔からよく言われていた。でも反対だからこそお互いに持っていない部分が見えたのだと思う。俺は響の落ち着いていて聡明なところに憧れていたし、響はよく俺の豪快なところに憧れると言ってくれていた。  響が亡くなった後、中学でサッカーを続けるか迷ったこともあった。ゴール前にパスが飛んでくるときに、「豪!」と俺の名前を呼びながらパスしてくれた響の声を思い出して辛かったけど、くよくよしているのは俺らしくない。響が憧れてくれた俺のままでいたいと思い続けてきた。それでもまだサッカーをしていると、あいつの透き通った声が脳に響いて仕方がなかった。 「澤田 豪(さわだ ごう)です!よろしくお願いします!」  高校1年生の春。入学後初めてサッカー部の練習に参加したが、さすが強豪校。軽く実力を見ておきたいと始まった1年生同士での練習試合は中学の時とはレベルが違っていた。お互いライバル意識が強く、初めましてだと言うのに激しく削ろうとしてくる奴もいた。マジかよ。でも俺はずっとストイックに練習をしてきた自分の技術に自信があったし、相手がぶつかってきても負けないように体を鍛えてきた。負けるかよ。名前もまだ覚えてない同級生との間に険悪なムードが流れた。 「やりすぎやりすぎ!ストップ!」  さすがに3年の部長の和泉(いずみ)先輩が止めに入った。 「やる気があるのはいいけど一緒に全国目指す仲間なんだから潰し合うようなことするなよな!」  和泉先輩が声をかけると途端に大人しく言うことを聞く部員たち。和泉先輩は一昨年の冬の全国大会で1年生ながら出場していた天才的なサッカープレイヤーだ。結果は惜しいことに準優勝だったが先輩は大会で得点王を取っていた。当時はテレビでも取り上げられ、俺も家で試合を見ていた。実のところ俺は先輩のプレーを見て入学を決めたといっても過言ではなかった。それくらい和泉先輩の正確で芸獣的なシュートは俺の記憶に強く残っていた。それは恐らく他の部員も同じだった。間もなく1年生同士の練習試合は再開された。   「さっきは悪かった」  練習試合の後、さっき俺と険悪なムードになっていた相手が謝りに来てくれた。なんだ、そんな悪い奴ではなさそうだ。 「いや、大丈夫だよ。これからよろしく。俺、澤田」 「あぁ。俺は高木(たかぎ)……てか同じクラスだろ」 「え!わりぃ!まだ顔覚えられてなくてさ」  まさかの同じクラスだった高木。俺がかつて憧れていた海外のサッカー選手のように明るい茶髪の肩に付くくらい長めの髪を後ろにまとめている。練習試合中の真剣でするどい目つきから急に爽やかな笑顔を向けてくる高木。何というギャップ。これは並みの人間だったら落とされるわ。 「澤田って誰にも興味なさそうだもんな」 「え?そうか?」 「よく遠く見てるけど」 「マジか、無意識だったわ」 「まぁいいけど……あ、ランニングだってよ。行こうぜ」 「おう」  響を亡くした喪失感は俺の中でずっと残っていて、たまに遠くを眺めてしまうのが悪い癖になっていた。もう高校生になったのだ。さすがに直さないとな。もしかしたらずっと遠いところから響が見守ってくれていて、俺の事を心配して成仏できていないかもしれないしな。
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