確かめた

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確かめた

「本当に響なのか?」  俺の部屋の勉強机の椅子に響が座っている。病院へ行く間ずっと響は俺の横にいたが誰も何も言わなかったから、俺にしか見えていないようだった。診察の結果、頭も体も共に異常はなかった。家に帰る間もずっと黙ってついてきて(憑いてきて?)今ようやく落ち着いて二人きりで話せる状況になったところだ。 「そうだって」 「いやいやこれは俺がつくりあげた幻覚だろ?頭ぶつけておかしくなっちまったんだって」 「さっき病院で異常ないって」 「普通に会話できてるし!幻と!何でだ!」  俺はベッドで頭を抱えて転がり嘆いた。それを可笑しそうに見てくる響。というかさ……。 「なんで成長してんの?」 「幽霊は成長したらいけないの?」 「いや知らね、ってか幽霊なのかよ!」 「うーん。今の状況を鑑みると幽霊って表現が一番しっくりくるかな」 「なんでそんなに落ち着いてんだよ!」 「落ち着いてなんかいないよ。豪に会えてめちゃくちゃ興奮してる」  そう答える響の声のトーンは落ち着いていた。俺の頭も響から「豪」と呼ばれると自然と落ち着いていった。そして違和感の正体に気付く。 「……そっか、声変わりしてんだ」 「あ、確かに。ちょっと低くなってるかも。豪はめっちゃ低くなったね」  ずっと脳内で聞いていた声は生きている頃の小学6年生の響の声だったから、大人びた今の響の声を初めてちゃんと認識した。少しハスキーで色っぽくなっている。 「確かにって。響はずっと幽霊だったわけじゃないのか?」 「ん-?まぁ細かいことはいいじゃん。今は再会を喜ぼうよ」 「えぇ?」 「豪は嬉しくない?」 「……嬉しいけど」  ベッドに腰掛ける俺の横に腰掛けてくる響。正直言って幽霊だろうが幻だろうが、こうやってまた話せていることが死ぬほど嬉しかった。  響は興味深そうに俺の部屋を見て回った。そしてベッドに腰掛ける俺の隣に座った。正しくは響は常に浮いていて、座っているように見えるだが。 「サッカー続けてたんだね」 「もちろん。プロになるって散々話しただろ」 「……一緒になろうってね。ごめん、約束守れなくて」 「何だよ。しょうがないだろ。まさかそれ言いに来たのか?」 「たぶん違う」 「たぶんてなんだよ。ってかなんか距離近くねぇか」 「触れられないんだし別にいいじゃん」  隣に座る響の距離が気になったけど「触れられない」という事実に心が痛んだ。さっき思わず再会の喜びから髪をくしゃくしゃにしてやろうとしたら手が通り過ぎてしまったことで気づいた事実だ。 「いややっぱ近いって」 「何で?離れてた分近づきたいじゃん」 「うっ……」  ニコニコと本当に嬉しそうにされるとこれ以上拒めなかった。 「それで話の続きというか本題なんだけど」 「ん?」 「どうして僕は豪の前に現れたのでしょーか!」 「は?」  突然のクイズに頭が追い付かない。呆然としている俺の頬を突っつく素振りを見せながら、俺が口を開く前に響は答えた。 「豪がプロでサッカーをする姿が見たいからです!」 「……は?」 「ということで、豪がプロ入りするまで、ずーっと憑きまとうから。よろしくどうぞ」 「はぁ!?」  俺の声は思ったよりも大きく出ていたようで、後で母親にやはり頭を打っておかしくなったのではないかと心配された。
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