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信長様は怖いけど面白い方だった、今川義元は貴族っぽい顔とは裏腹に腕っぷしが強かった、まさか松平元康が最終的に天下を取って江戸を巨大な都にしてしまうとは思わなかった、それまで生きていたかっただの、俺達は前世の話題で盛り上がった。
「お二人さん、前世は戦国時代の武士だったんで」
寿司屋の主人が声をかけてきたので、俺達は「ええ」と答えた。
――武士は武士でも下っ端、足軽だけどな。
「いいっすねえ。あっしなんか、前世は人間じゃなかったみたいなんすよ」
「と言いますと?」
「なんか知りやせんけど、地面を這っているんすよ。そしたら、いきなり暗くなって……」
「それで?」
「記憶はそれっきり。今思うと、あの時、あっしは芋虫か何かで、踏みつぶされたのかもしれませんねえ」
「へえ……」
芋虫か。前世が人間以外だったとしても、それは珍しいことではないだろう。この世には数えきれないほどの生き物がいるのだから。人間なんて、その中のごく一部に過ぎない。むしろ、前世も人間だった俺達の方が、珍しいのかもしれない。
「へい! 甘海老の握り、お待ち!」
主人が俺に、握り寿司が二つ乗っかった皿を差し出した。一瞬、寿司飯の上に寝そべっている甘海老の姿が、芋虫に見えた。
口の中に入れることをためらいそうになったが、それは主人の話のせいだ。
そう考えながら、俺は寿司に醤油をつけて口に運んだ。
「もしかすると、この甘海老も何かに生まれ変わっているのかもしれないな」
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