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そうか、昨夜俺を送ってくれてそのまま泊まったんだ。
篠田は本庄の手前俺と一緒のベッドに寝るわけにもいかず、いつも弟が泊まるとき用の布団を別室に敷いて寝たらしい。
――俺が飲みすぎたせいで皆さんすいませーん……。
お詫びの意味を込めて朝食の支度をした。キッチンが騒がしくなったのでまずリビングの本庄が目を覚ました。
「おはようございます……」
「あ、起きたか。おはよう。昨日はすまなかったな」
「いえ全然。むしろ俺こそ泊めていただいてすみませんでした。篠田さんと話してたら終電逃しちゃって。ルームシェアしてたんですね」
「え? ああ……そうなんだよ」
「びっくりしました。鍵開けようとしたら本部の見たことある人がドア開けて出てきたんですもん」
「あはは、そうだよな。ごめん言っておけばよかったな」
「篠田さんってすげえイケメンですよね。俺遠くから見たことしかなかったんすけど、昨日近くで見たらまじでモデルみたいでびびりました。それにすげー優しいですし」
その後篠田も起きてきて皆で朝食をとった。本庄は昨夜篠田と話してすっかり打ち解けたようだ。これまで俺に懐いていたのだが、篠田に対しては心酔しているといっても良いくらいに見えた。
「自分実家暮らしなのでルームシェアなんて羨ましいです。俺もこんなところに住みたいなぁ。篠田さん、床で寝ても良いからここに俺も住んじゃだめですか?」
そう懇願する本庄に対し、篠田は笑って受け流していた。
――おいおい、いくら人懐っこいからって図々しい奴だな。コミュ力おばけ過ぎてこええわ。
◇
その翌週、普通に仕事していたら給湯室で本庄が後ろから声を掛けてきた。
「あれ? 先輩ここ、赤くなってますよ。虫刺されかな?」
いきなりワイシャツの首の後ろに指を入れられて俺はビクッとした。
「え? あ、ああ! そういや昨日部屋の中にデカい蚊がいたよ」
「ふーん、そうですか」
――篠田め、見える位置にキスマーク付けたな? いや、本庄がデカ過ぎて普通の人なら見えない角度から見えたのか……。
その時はただそう思っただけだったが、それから不思議と本庄が俺に触ってくるようになった。気のせいかも知れないレベルだが、物を受け渡すときに手を触られたり、何かある度に肩に触れてきたり腰に手を回されたり。なんとなくちょっとゾワッとするような触れ方をしてくるのだ。
――いやいや、何考えてるんだよ俺。自意識過剰だよな。
この件を篠田に打ち明けたほうが良いのか迷っていた。でもわざわざ言うほどのことでもないよな、とそのまま様子を見ることにした。
そんなある日、本庄が仕事のことで悩みがあるから相談に乗って欲しいと言ってきた。篠田にも聞いて欲しいとのことで、俺達の部屋にまた来たいという。
まあ篠田もいる自宅なら二人で飲み屋に行くより安心か、と思って了承した。一応篠田にはLINEで本庄が来ることを伝えておく。忙しいのか、俺たちが帰宅してもまだ篠田からの返事は無かった。
俺は帰宅してすぐにあるもので適当に軽い食事と、酒のアテになるものを作った。そして篠田を待たずに本庄と先に飲み始める。
本庄は食べっぷりも良くて料理の作りがいがあった。そして相変わらず酒もゴクゴク飲む。つい俺もつられてペースがいつもより上がっていたのか、また飲みすぎてしまった。
「先輩お酒弱いんじゃないすか? もう酔っちゃったの?」
「あ~? んなことねえよ、お前が飲み過ぎるから釣られたんじゃねーか」
「あはは、ぐっだぐだですね。赤い顔して可愛い」
「うるせー、もう一杯飲む……」
「やめときましょー? 篠田さん帰ったらびっくりしちゃいますよ」
「ああ? 篠田はまだかよそういや。おせーな」
「まだですよ。今日は残業で遅くなるって」
「え~? 俺には返事まだ来てないんですけど~~?」
「ああ、もう、こらこら。それ俺のスマホっすよ」
「しのだのばかぁ。もうしらない……」
「あーあ、寝ちゃった。篠田さん遅くなるって言ってんのに――こんな無防備で大丈夫? 俺、襲っちゃいますよ?」
「んん……」
身体がふわっと浮いた感じがした。
――なんだ? 抱っこされてる? 篠田帰ってきたの……?
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