墓荒らし部に乾杯

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 仲良かったよね、川口。残念だけどね、まあそういうこともあるからさ。励ましてきた言葉は何も入ってこなかった。 「ありがと、舞花ちゃん」  第一、斉藤由美という人は、私を川口なんて言わなかった。私は、川口舞花。花が舞うと書いて、舞花だよ。ふわふわとした感じの雰囲気で、綿菓子みたいな声でマイカちゃんと言ったのだ。ぱっと見はバカみてえな、私をそのまま男にしたみたいな頭すっからかんな男に引っかかりそうなもんだから、こっそり私は由美には彼氏いるし、という嘘の噂を広めてやったのだ。 「なんだ急に、いいからスコップ動かせよ」  墓場の土は硬い。墓荒らし部の途中で、由美は急に私に感謝した。体力はない、力はない。握力は両方十五キロ。運動神経も悪く、新体力テストだってバカみたいに悪い成績。おまけに運動なんてほとんどしたことはない。由美は本当に、私の目から見ても墓荒らしには向いていなかった。  そんなアホみたいに体力がなくて、知らない人には目も合わせられないようなのに迷惑をかけられることはよくよくあったけれど、さっき言った理科ノートみたいにいい事してくれることもあった。だからって、それだけで由美と仲良くしていたわけではないけど。  その時の依頼は、確か中学校の時に仲良くしていた友達の墓を荒らしたいけど、どうも高齢で私には墓が荒らせなくてねえと言っていた七十七歳のおじいちゃんからだった。墓荒らし部は、近所の墓が荒らしたいけど荒らせない人たちから無償で墓を荒らしていた。  足手まといだと、由美は思われていたんじゃないかと思う。墓荒らしなんてのはオタクか、アメフトなんかできそうな屈強な体を持つ人がやるもので、二つ結びのおとなしい眼鏡の女の子がするものではなかったからだ。 「墓荒らし部、入ってよかったかも、なんてねえ」  
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