墓荒らし部に乾杯

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 全部言いたいことは言った。たぶん、由美もそう思ってる。  奇跡的に居酒屋と由美の墓は近かった。これも全部鈴木が、最高級の墓荒らしのために高校の同級生に泣きついて、由美について全部を聞き出してやったからだ。  途中で高木と関が、俺墓荒らしなんて学生時代からしたことねえよ、もう暗いんだから無理だぜ諦めようよなんてほざく物だから高木の顔面をグーで殴った。関は野菜をしっかり食べたからギリギリビンタにした。 「どうせあいつは勉強ばっかだったんだから、ギッチギチで真っ白の骨が見えるぜ」 「そっか、斉藤、俺のこと好きだったんだ」 「ニンジン、タッパーでまとめたぞ」  地味だったあいつらしくなく、都心の静かな墓地の方に埋められていた。しゃらくせえ幽霊なんて夜だけどいるわきゃねえ、いたら高木みたいにグーで殴ってやるんだから。高木はそっか、俺、そうかあとなぜかまんざらでもない。正直きしょい。関はせっせとなぜかもっていたタッパーにニンジンを詰めていた。  不謹慎かそうじゃないかなんて、由美の決めることだ。一時間くらい、いろんな話をしながら掘っていた。それで、いつものようにストップウォッチで測ってベストタイム、65分28秒で、由美は骨だけになった。 「何か斉藤さんに言い残すことは」  勉強ばっかしてたから、という私の無茶苦茶な仮説は、ある意味で合っていた。それよりも、由美の墓はスコップ形の墓だ。そんなに墓荒らしにかけていたわけでもないだろうに、正直そこまで好きだったのかと笑ってしまった。 「アホがよ!!まだ『ブルーモルテン』読み切ってねえくせに!!私から!!ずっと!!十五巻返せ!!バカ!!」  あいつは、テスト週間終わったら読むねなんていって、私からお気に入りの漫画の、一番好きなキャラが初登場するよりによって十五巻を借りパクしやがった。そんなやつだった。そのくらいのやつだった、でもなんで泣いてんだろう。  バカバカ中高の同級生の鈴木が、やっぱりお前は最後まで素直に言えないのなとそれを聞いた時笑っていた。ニンジンを供えている関、照れながらさっき私が言った、「俺も好きだよ」なんてくさいセリフを言っている高木。 「そうじゃなくて」  いつもだったら嬉しそうに墓を荒らしている鈴木が、そうじゃなくて、いつもよりずっと優しく私を見ている。この時ぐらい、ちゃんと言えよなあなんてお前に言われる筋合いはないのに関にも高木にも言われた。  真っ白な骨が、私の目に映っては、にじんで見えなくなっていた。素直になるのは遅すぎた。言いたいことはたくさんあった。遊ぼうとかだせえから服選んでやるよとか。あと、喉仏大切に取っといてやるとか。  何を言うかわからなくなって、それでだんだん照れくさくなっていって、私の柄に合わないよなあなんて思いながら、とりあえず骨だけになった由美に言った。 「久しぶり」
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