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おじさんのいない生活はあっという間に過ぎた。それこそ受験だってちゃっちゃと済んでしまったし、その間も先生は進路のことも私のこともずっと心配し続けてくれた。
「真弓ちゃん、頭についてる」
「ほんとだ、肩にもついてるし」
強く風は吹いた。桜の木が動いたように見えた。
「私たち、よく頑張ってたよね」
「いや私、あんまり受験のこと覚えてないっていうか、あはは」
「うっそだ、そんなことないでしょ」
「あるのそれが」
中学を卒業してから、綺愛羅とは全く連絡を取っていないし、そもそも取る方法を知らない。それから神谷くんみたいな人たちもアレがどんな道へ進んだのかを知らない。進路先の話はともかく、綺愛羅にした私の行動が卒業までバレていなかったのが不幸中の大幸いだった。隣にいる田上さん、都ちゃんは知っていて黙っているかもしれないけれど。
「えじゃあさあ、あんな頑張った等積変形覚えてないわけぇ」
「知識としては覚えてるんだけどね」
「そういうもんなのかなあ」
おじさんがしたのは仕方ないことなのかはもっと知らない。どうしているのかも知らない。私は本当にあのおじさんに洗脳されていたのかもわからない。
「春があるのって、本当にいいことなのかもしんないなあ」
「あったかいって、いいなあ」
これからもっと辛いことがあっても、このおじさんの裸の写真があったらなんだって乗り越えられそうな気がするのだ。ポケットの中の写真を握りしめていた。
「ずっとこんな春が続けばいいのになあ」
「このくらいの気温がずっと続けばなあ」
どこにいたとしてもおじさんに会えるような気がした。だってこんなにもあったかいんだから。
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