『イリアス』――ギリシャ神話の叙事詩

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Q:もういいよ。諦めたわ。『イリアス』の真っ当な解説は、あんたには無理だってことね。ヘクトルについて、大いに語ってちょうだい。 A:いいの? いいのね! やった~♪ まずプロフィール。お父さんはトロイアのプリアモス王で、お母さんは、お妃のヘカベ。プリアモス王は子沢山で、50人も息子と50人の娘がいたそうな。そのうち19人の子供は正妻のヘカベが産んだとか……お母さんご苦労様です。ほかのお妾さんもご苦労様です。美女ヘレネを持って帰っちゃったパリスも、ヘカベさんの子どもね。 ヘクトルは長男で、いわば跡継ぎ息子。正妻の産んだ跡継ぎという設定だと、ぼんくら息子が多いけど、彼は違うぞ。 トロイア随一の勇者さま~。背も高くルックスもいいし、武力はピカイチ。知力もなかなか、特にカリスマはすごいわ。トロイアの人々は、神様のように崇めているぐらい。 Q:はいはい、すごいね、ほんと、すごいね。 A:ほほほ、すごいでしょ? ポイントは「輝く兜」ね。『イリアス』では、人の名前の前に、枕詞のような形容がくっつくの。彼の場合、大抵、「輝く兜のヘクトル」といわれます。それと背が高い。ギリシア古典の英雄の条件でしょ。 でも顔についてはあまり説明がないの。他の人のルックスは言及してくれるけどね。ここまでカッコよかったら、顔はどうでもいいか~と思ってると、最後の最後、ヘクトルが殺され、気の毒にも身包みはがされたとき、ギリシア軍はヘクトルの端麗な容貌を見て感歎するわけ。 ふふふ。戦闘中は恐い兜で顔を隠して、蓋を開けると美男子って、きゃ~、すてきぃ。 Q:あんたはいっつもルックスだの毛並みだの外面的なところばかり騒いで、人間は中身が大事でしょ。 A:あのね~、ヘクトルが一番すごいのは、中身なのよ!! トロイアの王子というとすごそうな毛並みだけど、なにせギリシアの古典じゃ、むしろ、毛並み的には大したことない。だって、神様の子どもがゾロゾロ登場する。両親ともに人間のヘクトルは、英雄達の中では並かも。 あと、ルックスについても、美男子は英雄の条件の一つだから、並でしょ。人間で一番ルックスがいいのは、弟のパリスかな。なにせ枕詞が「その姿、神にもまごう」だしな。美人の人妻ヘレネを持って帰るだけあるぞ。 武力もトロイアでは随一だけど、ギリシア側には、ヘクトルより強い勇者がいる。最終的にアキレウスに殺されるけど、その前の大アイアスとの一騎打ちでも、ヘクトルの方が弱いし。 でもね、そんなことは問題じゃないの! 少なくとも少女マンガ的には、彼が一番!
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