『イリアス』――ギリシャ神話の叙事詩

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Q:だからヘクトルの話はもういいって。そうだ、弟のパリスの話をしてよ。 A:最初は、きれいで頼りない兄ちゃんかと思ってました。でも、兄のヘクトルとの屈折した関係がいいんだな~。 超優等生の兄貴ヘクトルは、パリスをなじるなじる。しかも「お前は容姿だけの人間だ」と何度もいうところを見ると、ルックス的には、ヘクトルより上みたい。なにせ「神にも見まがう」らしいから。 できすぎた兄を持つ弟って、かわいそう。ヘクトルびいきのあたしさえ、パリスが気の毒になってしまった。 でも、ヘクトルはパリスを「お前はやればできる」と励ます。アキレウスにとどめをさされたとき「パリスがお前を倒すだろう」と言う。『イリアス』の後の話だけど、実際にアキレウスを倒したのは、パリスだし。 ヘクトルなりに、この弟に期待していたんだね。 Q:どうやってもヘクトルの話になっちゃうのね。他に感想はないの? A:だって、ヘクトルかっこいいんだもん……。他の感想は…… 美女を巡る戦争だから、ロマンティックかと思ったら、違う。古代の戦争ものだけあって、かなり残酷。 頭蓋骨が粉々とか、戦車が屍の群れを踏み潰して進むだの……これ以上語れません! 血が苦手な人は覚悟した方がいいよ。 体調が悪いときにうっかり読むと、ますます気分が悪くなります。 Q:戦争はロマンスじゃないし残酷だよ。 A:これは、一種の反戦文学かと思ったぐらい。 英雄が活躍する戦記ものなら、悪いやつを討伐して世界が平和になりました、になりそうだけと、『イリアス』は違うんだよね。 勧善懲悪ではないの。どれほど人格が優れても、神々に真面目に仕えても、情け容赦なく殺されてしまう。 不毛な戦争を誰もがやめたがっているのに、神々の介入という形で戦争が続行され、神々の気まぐれで犠牲者が続出する。これは、現代にも通じる、戦争の虚しさ愚かさそのものでしょう。 作者ホメロスの意図はわからないけど、私はかなり「反戦」のメッセージを感じたなあ。古代ギリシア人は、どう思ったのかな?
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