壱 地元の心霊スポット

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 深夜、静かな温泉街にバリバリとエンジン音を響かせながら、俺達五人はいつもの如く、マフラーを弄ったバイクに乗って目的地を目指す。  〝人肉館〟は浅間温泉という古くからの温泉街の、少し山際に入った場所にある……山間(やまあい)のせいか、松本の市街地よりは空気がひんやりとしている。  東京や名古屋なんかに比べればまだマシなんだろうが、松本は盆地だし、昨今の温暖化もあって夏はそれなりに暑い。  そんな夏の夜に、涼しい夜風を浴びながらバイクを転がすのはなんとも心地が良かった。  だが、今は使われていない旧何々トンネルだとか、よく聞く心霊スポットのように人里離れた場所にあるわけでもないので、夜のツーリングを楽しむ間もなく俺達はその場所に到着してしまう。 「お、あれだな……」  お目当ての廃屋は、すぐにわかった。  バイクを停め、舗装された小道から敷地内の闇に目を凝らしてみれば、あまり意味をなしていない有刺鉄線のバリケードの向こう側に、淡い黄色をしたコンクリの建物がぼんやりと浮かんでいる。  今のようにSNSや動画サイトはそれほど広まってはおらず、画像でも実物を見たことはなかったのだが、ウワサに聞く外観通りの奇妙な建造物だ。  〝人肉館〟は、普通の民家や飲食店などとは異なり、その形状が独特である。  全体がコンクリ吹きっぱなしのような壁面をしており、一階部分は台形、その上に二階というかバーベキューのできる屋上があり、そのための調理場なのか? 「コ」の字のようにオーバーハングした、やはりコンクリの壁が突き出ている。 「なんだ、思ったより大したことねえな」  俺達の中で一番チョゲているモッチャンが、その姿を遠目に眺めながら少々期待外れというような面持ちでそう呟く。   モッチャンは、頭も悪くケンカも強いわけではないのだが、いつも調子こいているチャラいやつだ。  だが、今のモッチャンの言葉に関していえば、少なからず俺達みんなも思ったことである。  鉄筋コンクリ建てのせいか、木造の廃墟なんかよりも朽ちてる感が弱く、あまり不気味な感じはしないのだ。
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