壱 地元の心霊スポット

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「まったく不用心な店だな……」  またキザな台詞でジョークを言うサンロウを先頭に、一列になった俺達が恐る恐る入口のガワ(・・)を潜ると、中は外以上にひんやりしていた。  埃っぽさとカビ臭さの混じる、そのひんやりとした暗闇に懐中電灯の光を各々に走らせる……今のようにLED電球のものではないので、照らし出された部分にもまだ仄暗さが残っている。 「おお! ちょっと雰囲気出てきたじゃねーか!」  モッチャンが感嘆の声をあげた通り、外と違って内部はちゃんと廃墟していた。  床には店の備品が散乱し、客席だったであろう一段高くなった座敷は畳が腐ってささくれている……。  また、薄汚れた壁には心霊スポットのご多分に漏れず、スプレーを使った落書きやアートが余すことなく埋め尽くしている……。  後年、不審火による火災が起こり、今では建物のガワ(・・)だけしか残っていないのだが、当時はまだ内部もしっかり残っていたのだ。 「あ、そうだ! 俺、兄貴のデジカメ借りてきたんだ。こいつでちょっと録ろうぜえ〜」  不意にモッチャンがそう言うと、背負っていたリュックから小型のデジカメを取り出す。コンパクトながらも、音声入りで動画も撮影できる高性能なやつだ。  今の若者ではピンとこないかもしれないが、当時はまだスマホもなく、動画を撮るにもそうした機材がなければ手軽にできない時代だったのである。 「これで幽霊とか映ればスゲえよなあ〜」  俺達が懐中電灯で照らす方向へカメラを向け、嬉々としてモッチャンは内部の状況を動画に撮る。 「そういやさ、ここってどんな幽霊が出るんだっけ?」  モッチャンの言葉を拾い、エバラが思い出したかのように訊いた。 「ああ、そう言われてみれば、何が出るかよく知らないよな……やっぱ殺されて食われたやつらの怨霊とか?」 「確か、店主が殺した愛人の霊が出るんじゃなかったっけ?」  ただのイメージから俺が当てずっぽうにそう答えると、どうやら聞いたことのあるらしいミハラがそれを訂正する。  だが、それにしても明らかに後付けっぽく嘘臭い……よくよく考えてみると、客に人肉を出していたことばかりが有名で、起こる霊現象についてはとても曖昧だったりするのだ。
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