恋とココアは甘ったるいくらいで

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「ありがとう」  笑って受け取って、決して返してはくれない関係。この関係を一歩踏み出すにはどうしたらいいのか、俺にはもう想像がつかない。  心愛がどうしたら振り向いてくれるのか、考えた。そもそもは、ただの仲良しグループの中の一人だった。カラオケに行ったり、海に行ったり、みんなで行ううちのその他大勢のうちの一人。  好きになったきっかけは、単純なことで。誰も見てないカラオケのドリンクバー前。ココアを注いでる心愛がまっすぐ俺を見つめて名前を呼んでくれた。  心愛にとっても、俺はその他大勢の中の一人だったと思ってた。  名もなきモブ。  仲のいいグループにだって序列があって、俺は一番下。名前を呼ばれることなんて稀だった。だから、まっすぐに俺の目を見て、名前を呼んでくれた心愛が好きになってしまった。 「由二(ゆうじ)くんも飲み物取りに来たの?」 「おう」  あの瞬間、俺の名前が急に特別なモノに変わったんだ。それ以来、心愛が俺の中で特別な人になったにも、関わらず……関係性は平行線を辿っている。  振り向いてもらうために何度喫茶店に誘っただろうか。甘いココアが美味しいお店を探しては、メッセージで送りつけた。  俺が探すココアは、生クリームが乗っていて、甘ったるい香りがする。  心愛がそんなココアが好きだって言ってたから。生クリームを食べてるんだか、ココアを飲んでるんだか、わからないものが好きなのって。 「また、一人で考え込んでる」  体に沈み込むような声に、泣き出したくなった。どうしたら、俺を見てくれる? 俺の好きは軽んじられない?  軽んじてるつもりなんて、一ミリもないだろうけど。 「俺もココア頼もう」 「初めて、じゃない?」 「まぁ、だって、何杯も飲んだし」  口にしてから、あっと固まる。目の前の心愛の表情が変わったことに、心臓が止まりそうだった。 「毎回、飲んでたの……?」  確かめるように、言葉にする。素直に言ってしまえと、心の中で小さい俺が騒いでた。素直に言えるくらいなら、好き以外のもっと上手い告白をしてたはずだよ、なんて宥めれば体育座りをしていじいじとし始める。
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