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今何してる?
そう聞かれたら、私は迷わず、「暇してる」と答える。
ウケ狙いのボケっていうのもあるけど、普通に今、暇してるんだもん。
今は漢字の小テストの時間。
けど、私の得意科目の小テストなんて、10分もあればすぐ終わる。
あと18分……暇だ。
私は頬杖をついて、窓を眺める。
窓の外、空の色は灰色。
早い話、くもり空。
雨はテンションが上がるし、今は11月だから晴れは暖かい。
けど、くもり空って、なんだか中途半端だよね。
ーーくもり空。
いつも「おはようございます!」「さようなら」「お疲れ様でしたー」って挨拶してくれて、けど、面倒な仕事は、私に遠慮がちに押し付ける。
そんな中途半端なバイト先の後輩みたい。
得意教科は本当に得意で、90点とかだけど、それ以外は60点くらいな、私の中途半端な成績みたい。
上の下くらいの大学受験に、勉強も一応やるけど、夜とかは漫画を読んじゃう、中途半端な私の熱意みたい。
一応、たぶん、と思う、だいたい、ほとんど……そんな中途半端な言葉をよく使う、私の台詞は、全部中途半端だ。
いつも喋ったり、グループとかは組むけど、一緒に遊んだこともない、誕生日も祝われない、そんな私の『友達』とも、『ただのクラスメイト』とも言えない彼女たちみたいに中途半端。
人が困ってたら、全員助けるわけじゃなくて、時と場合による、そんな私の善意ともいえない、自己満足の偽善行動と同じくらい中途半端。
なぜか私たち、三軍グループを目の敵にしてるっぽいけど、話しかけたら不機嫌になるだけで、嫌がらせだってしてこない、クラスの一軍女子たち。
彼女たちは、本当に中途半端だ。
いい印象なんて、まるでない。
でも、ちょっとムカつくけど、私も結構ぶっきらぼうな感じだし、ダメージはあんまりない。
いや…………。
中途半端、すごく中途半端だけれど、すごくムカつくことを、この間言われたな。
一軍だと思うけど、声の大きさと無神経さだけで、ギリギリ一軍、みたいな女子に。
『中途半端だよね』。
いや、そんな感じじゃなくって、『中途半端って最悪!』とも言われて、『ずるい』だとか、『悪か正義か、ちゃんとしなよ』、『コウモリみたい』。
『そんなんじゃ、三軍グループにもハブられるよ』、『偽善者』ーーだとか。
あの時は確か……確か、彼女が掃除当番で、押し付けられそうになったのを、遠慮がちに断ったんだった。
ーー中途半端とか、普通とか、そんなに悪いことかな。
私はさっきまで、自分の中途半端を責めてたくせに、他人に言われてムカついたことを思い出したら、あっという間に意見を変えた。
それも中途半端。
けど、そんな悪いことかな。
くもり空もそうじゃない?
少し寒いけど、雨はもっと寒いし、日焼けしないし……ちょうどいい。
でも少し、モヤっとする。
あの子の、『中途半端って最悪。悪か正義か、ちゃんとしなよ。コウモリみたい』なんて台詞には。
よし、決めた。
気分転換に、今度の休みーー明後日の金曜日から、金土日って、キャンプに行こう。
受験生だから、なんて言われても、気分転換とか言って、絶対行こう。
美しい夜空眺めて、焼きマシュマロ食べて、大自然の音を聞いて。
もちろん、スマホなんて置いていって。
この中途半端な世界から、逃避して、そしたらーー。
そしたら、少し、このくもった気分も晴れるに違いない。
そうだよね。
中途半端の、何が悪いの?
「中途半端上等!」って開き直っちゃえ!
そしたら、二日目はトレッキングとか、三日目は早めに帰って、叔母さんの車に乗せてもらって、ドライブとかもいいなぁ。
で、月曜日は、また学校、バイト、勉強って、繰り返してーー。
ーーーーーそれは、キリがなくないか。
中途半端で、すぐ晴れた心も曇る。
うん。
決めた。
評価とか、どうでもいい。
誰かに怒られようが、誰かに失望されようが。
私はすっくと立ち上がって、小テストを先生に提出する。
「え?テストは、終了後、皆で集めて、」
「知ってます」
先生の言葉を遮ってみる。
もしかして、初めてかもしれない。
なかなか気持ちよかった。
そんな私は、性格悪いかな。
でも、これまで『イイコ』だったんだもん。
一日くらい、不良してみても、別にいいじゃんか!
「私、早退します。具合が悪くなったので。それと、明日も念の為、休みます」
えっ、と、先生が唖然としてるけど、私は鞄を手に取って、歩き出す。
鞄を持って廊下をスタスタ歩く私を、他のクラスの人も、先生も、ぽかん、と口を開けているけど、どうだっていい。
なぜだか、そう思えた。
Sky・Powerかな。
これ以上ないほど、心が清々しかった。
晴れの日よりも、気分がいい。
家に帰って、荷物を置いたら、必要なものだけ持ってキャンプへ向かおう。
親が何を言っても、絶対に行く。
もちろん、スマホは置いてって。
正門の前まで来た。
くもり空は、少しだけ明るくなって来てる。
眩しい。
少し寒い。
暗い。
すごく中途半端。
ーーうん。
中途半端も悪くない。
でも自分の幸せは、晴天がいいから。
さぁ、今日だけはこの現実から逃げよう。
この、中途半端な空から逃げよう。
私はうっすら影が出来始めた地面を勢いよく踏みつけ、一歩踏み出した。
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