くもり空現実逃避

1/1
前へ
/1ページ
次へ
今何してる? そう聞かれたら、私は迷わず、「暇してる」と答える。 ウケ狙いのボケっていうのもあるけど、普通に今、暇してるんだもん。 今は漢字の小テストの時間。 けど、私の得意科目の小テストなんて、10分もあればすぐ終わる。 あと18分……暇だ。 私は頬杖をついて、窓を眺める。 窓の外、空の色は灰色。 早い話、くもり空。 雨はテンションが上がるし、今は11月だから晴れは暖かい。 けど、くもり空って、なんだか中途半端だよね。 ーーくもり空。 いつも「おはようございます!」「さようなら」「お疲れ様でしたー」って挨拶してくれて、けど、面倒な仕事は、私に遠慮がちに押し付ける。 そんな中途半端なバイト先の後輩みたい。 得意教科は本当に得意で、90点とかだけど、それ以外は60点くらいな、私の中途半端な成績みたい。 上の下くらいの大学受験に、勉強も一応やるけど、夜とかは漫画を読んじゃう、中途半端な私の熱意みたい。 一応、たぶん、と思う、だいたい、ほとんど……そんな中途半端な言葉をよく使う、私の台詞は、全部中途半端だ。 いつも喋ったり、グループとかは組むけど、一緒に遊んだこともない、誕生日も祝われない、そんな私の『友達』とも、『ただのクラスメイト』とも言えない彼女たちみたいに中途半端。 人が困ってたら、全員助けるわけじゃなくて、時と場合による、そんな私の善意ともいえない、自己満足の偽善行動と同じくらい中途半端。 なぜか私たち、三軍グループを目の敵にしてるっぽいけど、話しかけたら不機嫌になるだけで、嫌がらせだってしてこない、クラスの一軍女子たち。 彼女たちは、本当に中途半端だ。 いい印象なんて、まるでない。 でも、ちょっとムカつくけど、私も結構ぶっきらぼうな感じだし、ダメージはあんまりない。 いや…………。 中途半端、すごく中途半端だけれど、すごくムカつくことを、この間言われたな。 一軍だと思うけど、声の大きさと無神経さだけで、ギリギリ一軍、みたいな女子に。 『中途半端だよね』。 いや、そんな感じじゃなくって、『中途半端って最悪!』とも言われて、『ずるい』だとか、『悪か正義か、ちゃんとしなよ』、『コウモリみたい』。 『そんなんじゃ、三軍グループにもハブられるよ』、『偽善者』ーーだとか。 あの時は確か……確か、彼女が掃除当番で、押し付けられそうになったのを、遠慮がちに断ったんだった。 ーー中途半端とか、普通とか、そんなに悪いことかな。 私はさっきまで、自分の中途半端を責めてたくせに、他人に言われてムカついたことを思い出したら、あっという間に意見を変えた。 それも中途半端。 けど、そんな悪いことかな。 くもり空もそうじゃない? 少し寒いけど、雨はもっと寒いし、日焼けしないし……ちょうどいい。 でも少し、モヤっとする。 あの子の、『中途半端って最悪。悪か正義か、ちゃんとしなよ。コウモリみたい』なんて台詞には。 よし、決めた。 気分転換に、今度の休みーー明後日の金曜日から、金土日って、キャンプに行こう。 受験生だから、なんて言われても、気分転換とか言って、絶対行こう。 美しい夜空眺めて、焼きマシュマロ食べて、大自然の音を聞いて。 もちろん、スマホなんて置いていって。 この中途半端な世界から、逃避して、そしたらーー。 そしたら、少し、このくもった気分も晴れるに違いない。 そうだよね。 中途半端の、何が悪いの? 「中途半端上等!」って開き直っちゃえ! そしたら、二日目はトレッキングとか、三日目は早めに帰って、叔母さんの車に乗せてもらって、ドライブとかもいいなぁ。 で、月曜日は、また学校、バイト、勉強って、繰り返してーー。 ーーーーーそれは、キリがなくないか。 中途半端で、すぐ晴れた心も曇る。 うん。 決めた。 評価とか、どうでもいい。 誰かに怒られようが、誰かに失望されようが。 私はすっくと立ち上がって、小テストを先生に提出する。 「え?テストは、終了後、皆で集めて、」 「知ってます」 先生の言葉を遮ってみる。 もしかして、初めてかもしれない。 なかなか気持ちよかった。 そんな私は、性格悪いかな。 でも、これまで『イイコ』だったんだもん。 一日くらい、不良してみても、別にいいじゃんか! 「私、早退します。具合が悪くなったので。それと、明日も念の為、休みます」 えっ、と、先生が唖然としてるけど、私は鞄を手に取って、歩き出す。 鞄を持って廊下をスタスタ歩く私を、他のクラスの人も、先生も、ぽかん、と口を開けているけど、どうだっていい。 なぜだか、そう思えた。 Sky・Powerかな。 これ以上ないほど、心が清々しかった。 晴れの日よりも、気分がいい。 家に帰って、荷物を置いたら、必要なものだけ持ってキャンプへ向かおう。 親が何を言っても、絶対に行く。 もちろん、スマホは置いてって。 正門の前まで来た。 くもり空は、少しだけ明るくなって来てる。 眩しい。 少し寒い。 暗い。 すごく中途半端。 ーーうん。 中途半端も悪くない。 でも自分の幸せは、晴天がいいから。 さぁ、今日だけはこの現実から逃げよう。 この、中途半端な空から逃げよう。 私はうっすら影が出来始めた地面を勢いよく踏みつけ、一歩踏み出した。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加