イヌ不在

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イヌ不在

しょうもない話である。 コブタ、タヌキ、キツネ、ネコ♪ そこにイヌは入らない。 どこぞの町でこんな話があるという。 大事な何かが割れてしまった。それは四つに割れてしまった。 割れた三つは土へと還った。一つは掬われ持ち去られた。 大事な何かはそれはもう大事なものだった。だが物だった。物はいつか壊れる。だからそれは割れてしまったのだ。 それは大事な物だった。大切で貴重で神聖な物だった。だからそれには何かが宿った。何かはわからないが確かにそれには何かが宿っていた。だがそれは四つに割れた。 宿った何かは四つになった。四つになって別の物語を歩み始めた。 一つ、コブタ。白い小さな蚊取りブタ。唯一物として物語を紡ぐ、仲間の生を見届ける長寿のブタ。 一つ、タヌキ。タヌキの村からやって来た。病気ではないが何故か白いタヌキ。 一つ、キツネ。キツネの村を失った。稲荷の下でいなり寿司を食らう白い一尾のキツネ。 一つ、ネコ。何処にでも現れる白いネコ。もうすぐ尾がわかれそう。 大事な何かは四つに別れた。しかし元は一つの物である。 四つはもとに戻ることができないと理解しながらも懲りずに集まる。互いを探して、今でもこの世に在るのだと語り合うのだ。 コブタ、タヌキ、キツネ、ネコ♪ そこにはイヌは入らない。 どこぞの町の話からすると、四つに割れた何かはブタ、タヌキ、キツネ、ネコの四つになったのだとわかる。そこに意味はないのだろう。だからそれは他の何かに変わることがない。 ではもし五つだったら、六つだったら、その中にイヌはいるのだろうか。答えはいない。どんなに増えても、おそらくそのどれもはイヌではない。 ネコはよくて何故イヌはだめなのか。タヌキとキツネはよくて何故イヌはだめなのか。ブタはもう蚊取り豚なのだからそれしかない。あっても招き猫で、ネコは二回もいらないだろう。 何故イヌはそこにいないのか。
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