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ここから店まで少し距離がある。でも交通機関を使うほどでもないので、店まで歩くことにした。
「店長って真面目ですよね。休日なのに仕事のこと考えるなんて」
そう水谷くんが呟いた。
「そ、そうかな」
「そうですよ!店長、ちゃんと休んでます?」
「…今は何かに夢中になっていたいんだ」
「何かあったんですか?」
「大切な人を亡くして、そのことが頭から離れないんだ。だから今は気を紛らわすために仕事をしていたい」
「そうだったんですね…。店長って強いですね」
「え、どうして?」
「だって、前を向こうとしているじゃないですか」
水谷くんの方を見ると、水谷くんは真っ直ぐ俺を見ていた。
「店長は、強いですよ。ちゃんと、自分で認めてあげてください」
水谷くんは微笑んだ。その言葉に目頭が熱くなる。
「店長?」
「ああ、ごめん。こういう話、誰にもしたことがなかったから」
急いで顔を背けた。泣き顔を見せるだなんて、格好悪い。
「でも、俺はいつまでも迷ってばかりだ。いい加減、けりをつけなくちゃいけないんだけどね」
あはは、と乾いた笑い声が風に乗って消えた。
「答えなんて、すぐ見つかるものじゃないですよ。たくさん、迷いましょうよ」
にこりと笑って水谷くんが言う。
その微笑みに胸が痛む。でも、暖かい。なんだか不思議な気持ちになった。
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