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ぼんやり目を覚ますと、静かに寝息を立てる水谷くんが見えた。日が少し傾いていた。どのくらいうたた寝していたのだろう。
また彼の夢を見ていた。
すると、突っ伏して寝ていた手にぽたっと雫が落ちた。急いで顎を手で拭うと、濡れていた。俺は、泣いていた。あれは、夢だったのだろうか。
「うっ…」
水谷くんを見ると、目を覚ましていた。
「水谷くん!」
「て、店長…」
「ああ、良かった…本当に良かった」
「店長、すみません。元はと言えば俺が…」
「俺が悪いんだ。…いいや、どっちが悪いとか関係ないんだ。本当に水谷くんが無事で良かったよ」
少し冷たい水谷くんの手を握る。
「水谷くんに言いたいことがあるんだ」
「何ですか?」
「この前、大切な人を亡くしたって言ったろ?その人、俺の恋人だったんだ。俺はずっと忘れられないでいた。彼は、君に似ているんだ。君と彼を重ねて接してた。でも、俺は…、俺は、君自身と接したいって思ったんだ。今まで、騙しててごめん。君と、また新しく、恋がしたい」
水谷くんは静かに話を聞いてくれていた。
「なんとなく、何か事情があるのかなって思ってました。だって、店長、いつも上の空なんだもん」
にこっと、水谷くんは微笑んだ。
視界がじわっと滲んでいく。
「俺も、店長と忘れられない恋がしたいです」
すると、手をぎゅっと握り返された。
「俺も」
俺も、その手を強く握り返した。
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