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No.2「すれ違い」
登場人物名
・受け ユーリ………国王秘書であり恋人。オメガ。
・攻め エドワード…国王でアルファ。
「すみません、別れてください。」
一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。
恋人であり、俺の右腕の男に別れを告げられて頭が真っ白になり、気が付けば彼を俺の部屋に閉じ込めていた。
エドワードとは、お互いに惹かれあっていたと思う。
だが、彼はアルファで、俺はオメガ。付き合ったとしても、いつかは捨てられる運命だと分かっていた。
……それなのに、彼に思いを告げられて嬉しくなってしまい、受け入れてしまった。
それが、いけなかった。
俺は誰にも、自分がオメガだとは言っていなかった。
周りも、何でも卒なくこなす俺をアルファだと思っていて、エドワードもその一人だった。
オメガは面倒だから嫌いだと彼が言っていた時に、絶対にバレてはいけないと悟った。
バレたら、きっと捨てられるから。
だが、抑制剤も避妊薬も飲んでいたというのに、妊娠してしまった。
「アルファだからゴムはいらないだろう」と言うエドワードを止められなくて、アルファの種に俺の体は負けたのだ。
だから、捨てられる前に自分から切ってしまおうと、思ったのに。
「…いい加減に、出してくれませんか。」
「お前があの言葉を撤回したら、出してやるぞ。」
「………」
エドワードに監禁されてから、一ヶ月。
逃げられないように手足に枷が嵌められ、ベッドに寝かされた。
そこから伸びる鎖は入り口まで届かないくらいの長さで、部屋の浴室とトイレにはギリギリ届いた。
そして、毎日朝昼晩彼に食事を介護され、寝る時も傍で抱きこまれて眠る。
離す気が無いのは、すぐに分かった。
だが、俺がオメガだと分かればすぐに捨てられるだろう。
そうしたらここから解放されると分かってはいたが、それでもエドワードの口から、その言葉を聞きたくなかった。
俺を拒絶する言葉を、彼の口から聞きたくなかった。
「ほら、食事だ。」
「……」
エドワードが、スプーンで食事を掬い俺に向ける。
食べなかったら口移しで与えると初日に言われてからは、大人しく毎日食べるようになった。
嫌がってもキスはされる。だが、何故かこの一ヶ月、性行為は一切されなかった。
「ッ……」
最近、つわりが酷くなりはじめた。エドワードが持ってくる食事の匂いで、何度吐きそうになったことか。
バレてはいけないと、必死に匂いにも味にも耐えて食べてきた。
だが、今日は一段と酷い。
「ッ……ごめ、なさ……ッう、ぇ゛……」
「…はぁ。」
耐えきれずに、一口入れただけで吐いてしまった。
そんな俺を見て、エドワードが溜め息を吐く。
バレてない、だろうか。つわりだと気づかれていないだろうか。
ただ体調が悪いだけだと、言ってしまおう。
だが医者を呼ばれたら、どうしよう。
「やっぱりか。何だったら食べれそうか?匂いがキツイんだろう?その前に、着替えないとだな。」
「ッあ、な……なんで、」
匂いがキツイのだと、バレた。
やっぱりと言ったという事は、気づいていたのか。
恐怖でエドワードが見れない。
……嫌だ、聞きたくない。怖い。
俺が汚した服を、エドワードが脱がす。
すぐに新しい服を持ってきて、濡れた暖かいタオルで体を拭いてくれ、汚れていない服を着せられた。
そして、ベッドの縁に座って俺と目を合わせるように覗き込んだ。
何故かオメガの俺にいつも通り優しくするエドワードを、不思議に思う。
「妊娠したのならちゃんと報告しろ。誰の子だ?」
「ッ……は、」
言われた言葉は、予想外過ぎて一瞬理解が遅れた。
「別に怒らない。お前が本当にその人が好きなんだったら、もう解放してやる。だから、俺には本当の事を言ってくれ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!何で俺が、エド以外の人を好きになるんですか!?この子は俺とエドの子です。他の男なんて、いる訳……」
エドワード以外の男に、抱かれるわけがない。好きになる訳がない。
なぜ俺の腹の中にいる子が、エドワード以外の男との子だと思ったのか。
それに、ずっと騙していた事も、オメガだという事も怒らないのか。拒絶、しないのか。
彼の言動に、意味が分からなくて混乱する。
「……は?じゃあ何故逃げようとしたんだ。俺はてっきり、別の男との子だから、逃げようとしたのかと……」
「…違います。エド以外に、抱かれるなんてあり得ない。ただ、俺は……エドワードが、オメガは嫌いだって、言っていたから…」
「……だからオメガだと隠そうとしていたのか。」
エドワードの言葉に、小さく頷く。
泣きそうになってしまい、乱暴に服で目を拭った。
「…お前が、オメガだと隠している事は知っていた。だから敢えて聞くようなことはしなかったが……そうか、そういう事だったのか。」
エドワードが俺の背に腕を回し、優しく撫でる。
そして、幼子に言い聞かせるかのように、優しい口調で話し始めた。
「オメガは、俺にすり寄ってくるから面倒で嫌いだと言ったんだ。お前は、俺がアルファだからと媚を売るようなタイプじゃないだろう?」
「そう、ですけど……あ、あれってそういう!?」
「当たり前だ。お前がオメガだと気づいているのに、そんなことを言うものか。」
ということは、エドワードはずっと前から俺がオメガだと気が付いていたのか。
「俺はお前を愛していたから、寄ってくる他のオメガが面倒だったんだ。それに、運命の番であるお前が側にいるのに、気が付かない訳がない。」
「ッあ、え……ッッ!?う、運命の番、なんですか…?」
「気づいてなかったのか?」
「し、知らなかった、です……」
そうだったのか。それなら、俺がオメガだと彼にバレていて当然だ。
抱かれたら、匂いですぐにバレただろう。
「……じゃあ、何で噛まなかったんですか?今まで、そういう素振りは一度も……」
「…無自覚だろうが、首の近くに顔を近づけるとお前が怯えるから。嫌なのだろうと思って顔は近づけないようにしていた。」
俺が怯えるから、ずっと我慢していたのか。
オメガだからか昔から首が弱くて、大げさに反応してしまう自覚はあったが…
「だが、そうか……お前は、俺の事を嫌いになった訳ではないんだな?」
「嫌いになんて、ならないですよ。今も、エドワードの事を想っています。」
「それなら良かった。」
エドワードが、俺の手足に付いている枷を外す。
そして、腰に腕をまわしてぎゅっと抱きしめられた。
「…愛している。だから、俺から離れないでくれ。」
「ッ……ん、すみなせんでした。勘違いして、一人で先走ってしまって……」
「いや、俺も勘違いをして閉じ込めて、悪かった。」
少し体が離れたかと思うと、エドワードの顔が近づいてくる。
キスされるのだと分かり、抵抗せずに目を閉じて、彼の動きを待った。
「ッん、んッッ……」
久々に、彼のキスを受け入れた。
ちゅ、ちゅっと何度もリップ音を立て、触れるだけのキスをされる。
一ヶ月振りに自由になった腕で、俺も彼をぎゅっと抱きしめた。
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